美しさ競う大会を再現 琉球競馬 ンマハラシー


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琉球競馬を再現したイベント
馬の存在再び身近に

先月22日、沖縄こどもの国で「第十八回琉球競馬 ンマハラシー」が開催された。こどもの国からはヨナグニウマに乗った騎手が出場。沖縄市伝統の知花花織に身を包んだ姿でも会場の目を引いた。手前は2位の成績を収めた「なびぃ」と渡邉百優さんのペア。走りの美しさを競う琉球競馬。ここでの「美しさ」とは人馬一体となり、規則正しく走る「律動美」のことであると、梅崎晴光さん(スポーツニッポン記者)は解説する。 写真・村山望

速さではなく、走る姿の美しさを競う。沖縄にはかつて、世界でも類を見ないかたちで行われる競馬があった。沖縄本島では1943年、首里で開催されたのを最後に途絶えていた行事だが、沖縄こどもの国が「琉球競馬 ンマハラシー」として再現する取り組みを続けている。先月22日に3年ぶりに第18回目のイベントが開催され4団体17頭の馬が出走した。琉球競馬は沖縄の歴史や、先人の暮らしを知る手掛かりとしても重要な意味を持っている。会場を訪れ、関係者たちに話を聞いた。

沖縄こどもの国から出場した「なぐに」と上江洲かなさんペア(左)、「どぅなん」と平尾優昴さんペア。上江洲さん、平尾さん、表紙面で紹介した渡邉百優さんは、馬担当の飼育員として勤務しながら、競馬の練習に取り組んでいる

ぱっかぱっかぱっか…、ひづめの音を響かせて2頭の馬が駆けていく。伝統衣装で着飾った騎手たちの姿も印象的だ。晴天に恵まれた先月22日、沖縄こどもの国で開催された「琉球競馬 ンマハラシー」。往復約100メートルのコース周辺には多くの観客が訪れていた。

ンマハラシー(馬走り)とは、かつて県内各地で行われた琉球競馬の呼び名の一つ。こどもの国のイベントは、走りの美しさを競うという、琉球競馬の根幹を継承しながらも、現代の人にも分かりやすいよう工夫を加えて行われている。

馬と騎手の緊張を感じて固唾を飲む人、馬に声援を送る子どもたち、会場が一体となって競技の行方を見守っていた。

ルールと見どころ

今回大会で優勝したのは「シナモン」とデスティニー・デサーマーさん(ホースガーデンちゅらん)

2頭の対戦形式で行われる競馬は、スタートからすでにユニーク。騎手同士が合図を出し、お互いの息が合ったところで走り出す、相撲の立ち合いのような方法だ。速さを競う競馬では、襲歩という走り方が基本だが、琉球競馬だと大幅な減点対象。馬の足運びが優雅で、騎手の上下動が少ないイシバイ(落ち着いた走り)、またはジーバイ(地走り)と呼ばれる走法を保つことが、美しいと評価される。出走を終えた2頭の馬は、4人の審判が上げる旗で優劣を判断する。

ペースを保って馬を走らせる様子は、穏やかにも見えるが、騎手との信頼関係に基づいた高度な技術だ。馬は本来、環境の変化に敏感な動物。多くの観客がいる場では、とっさの反応として、立ち上がったり、襲歩で走り出すことがある。いかに馬を落ち着かせ、美しい走りを引き出すかは、騎手の腕の見せ所である。

馬と人の歴史伝える

琉球競馬のルーツは王朝時代の「御用馬」にある、と話すのは、スポーツニッポンの記者・梅崎晴光さん。2006年から県内で競馬の記録や痕跡を調査している。

琉球国王が交代する節目に、時の中国の王朝から派遣されてきた冊封使節団。使節団は今で言う国賓だ。その人々を安全かつ快適に移動させる手段が、よく調教された御用馬たちだった。落ち着いて歩みを乱さず、乗る人の上下動が少ない、という琉球競馬の審査基準は、御用馬に求められた能力と一致する。御用馬を見定めるために「御用馬見立て」という試験も存在した。18 世紀以降、県内各地に移り住んだ士族=屋取たちが、御用馬見立てを独自に行い、娯楽化していったのが琉球競馬なのだと梅崎さんは推測する。

御用馬のような優秀な馬を確保できたのは、馬が身近な存在だったからだ。昔の人々は馬を飼育し、荷物の運搬や農作業に用いてきた。しかし、軍馬として戦争に巻き込まれたことや、戦後の農業の機械化で、人々の生活環境から馬の姿は急速に消え、現在に至っている。

(左)スポーツニッポン記者・梅崎晴光さん (右)「ンマハラシー」イベントの広報を担当する沖縄こどもの国の金尾由恵さん

「沖縄の歴史・文化を支えてきた在来家畜を残したい、と考えた時に、馬の活用方法として思いついたのが『ンマハラシー』なのです」

こどもの国・広報担当の金尾由恵さんはそう話す。今後はイベントを継続しながら、馬主となる個人や団体を増やしたいそうだ。多くのファンがいる闘牛のように、琉球競馬も地域にしっかりと定着させたいという。

馬の足並みの美しさ、騎手の技術、伝統的な衣装や馬具…。琉球競馬の会場は、先人たちが育んだ、魅力的な文化であふれている。まだ見たことがない、という人は、次回の大会にぜひ足を運んでほしい。

(津波典泰)


〈問い合わせ先〉

公益財団法人沖縄こどもの国
沖縄市胡屋5-7-1
TEL 098-933-4190

(2023年2月9日付 週刊レキオ掲載)