「便サン」「しりしりー器」「命名札」調べてみた。 → ほとんどのおうちにあった。 「てみた。」9


「便サン」「しりしりー器」「命名札」調べてみた。 → ほとんどのおうちにあった。 「てみた。」9
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沖縄の家庭には「三種の神器」があるという。茶色い便所サンダル、ニンジンしりしりー器、命名札。「知りませーん」と言う人はいないでしょう。

でも今も「一家に一個」あるのかな? 「てみた。」取材班は「発掘! あるある調査隊」を結成。南城市津波古地区に狙いを定め、三種の神器の「あるある」ぶりをアポなし調査してみた。

便所サンダル

恥ずかしい…でも

11日の午前11時、調査隊は津波古公民館に到着した。郷ひろみの名曲「ゴールドフィンガー99」が大音量で流れている。気温は既に32度。たぶちゃん隊員が「ほんとにアチチ、アチチですね」と汗を拭った。

郷ひろみに「ゴー、ゴー」と背中を押され、地区内を一軒一軒、訪ね歩く。「ごめんくださーい」の呼び掛けに、津波和枝さん(65)が「はぁい」。縁側まで出てきてくれた。

津波和枝さんが2~3年履き込んだ便所サンダル。ちぎれそうになっても「もったいないから捨ててない」。愛情が匂い立つようだ

すぐ下には茶色い便所サンダル、通称「便サン」。真崎(まっさき)隊員が細い目を輝かせ、「これを探してました!」。

津波さんは「これ履くのは中高年。昼間に履いて出るのは恥ずかしい。かねひでに行く時も。夜だったら履けるけど。でも、みんな履いてますよね?」とニヤリ。

2、3年履き込んで、甲の部分がちぎれ掛かっている。「もったいないから捨ててない。でもゾウリ(便サン)負けしてるよ」と言って、擦れて赤くなった右足を見せてくれた。便サン歴30年。今は縁側、トイレ、勝手口に1足ずつ置いているという。

しりしりー器

機械よりもこっち

調査隊は、三種の神器の写真をそれぞれカラー印刷していた。それらを手に「これ、お宅にありますか?」と尋ねて回ると、ある女性は「間に合ってます」とドアをピシャリ。甲子園中継に熱中していた男性は、手を左右に振って「要りませんっ」。訪問販売員と間違われていたようだ。

調査開始から2時間半。宮城敏子さん(72)が愛用のニンジンしりしりー器を見せてくれた。大きなしゃもじのような形状で、木製の板の中央に金具が付いている。「週1回くらい、ニンジンすったり、パパイアすったり。ニンジンは一度に5、6本すって、冷凍しとくわけ。栄養たっぷりだからね」

愛用のニンジンしりしりー器で「エアーしりしりー」を見せる宮城敏子さん。サウスポーが光る。切り込み写真は愛用のしりしりー器。10年ほど使っているという。

ニンジンしりしりー器は、小学校の頃から自宅にあったという。現在使っているのは10年ほど前、那覇のまちぐゎーで買った。400円くらいだったとか。サウスポーの宮城さんは腕をぐっ、ぐっと上下させ、しりしりーする様子を再現してくれた。

「これ(しりしりー器)は大きくて力が入りやすいし、簡単には壊れない。昔の人の知恵はすごい。便利な機械より、私はこっち。たまに指も切りますけど」

命名札

積み重なる家族の記憶

公民館に戻り、盆踊りの練習に来ていた津波千代さん(72)と会った。自宅に命名札があるという。伺うと、仏間の壁に確かに「あるある」。お孫さんの名前が並んでいる。

ずらっと並んだ孫の命名札にほほ笑む津波千代さん。中には25年前の一枚も。「絶対に剥がしませんよ」=11日、南城市津波古

「この子はもう25歳、この子はおばあのお祝いの日に生まれて…」。全部で10枚。すっかり茶色くなった命名札もある。津波さんはアルバムも持ってきて「これが去年、孫に会いに家族で岐阜に行った時の」「上の子は演劇やってて…」とうれしそう。

帰り際、玄関でたぶちゃん隊員が言った。「子どもが大きくなったら、命名札を剥がす人もいるようですが」。津波さんは「いやいやっ」と手を振って「絶対に剥がしません」と即答した。

猛暑の中、歩き歩いた調査隊。アポなしながら、10軒以上のお宅で三種の神器の話を聞くことができた。「あるある」率を野球の打率で表すと…。大リーグでも首位打者、間違いなし。


「三種の神器」のヒミツ、
調べてみた。

● ウチナーンチュは便サン好き

 塩化ビニールでできたサンダル。トイレで履くことが多いからか「便所サンダル(便サン)」と呼ばれることもあるようだ。「パール印」のサンダルを製造する丸中工業所(奈良県)によると、正式名称は「一体成型サンダル」。沖縄への出荷は鼻緒がある「ギョサンサンダル」と合わせて多い時で月に5千足。なんと47都道府県に卸している中で、沖縄への出荷は全体の約2~3割を占めるそう。中井良洋代表は「オールシーズン注文があるからですかね」。冬でもサンダルが履ける暖かい気候で、海に囲まれた地域ならではなのか。

 色展開は白、青、ピンクなど14種類あるが、沖縄への出荷は8割が茶色だ。中井代表は「茶色は昔からあるので、なじみやすいからかもしれない」と推測する。

 創業60年になる同社が沖縄の業者に卸し始めて50年になるという。「長年購入していただいてうれしいです」と中井代表。「いつまでも丈夫なサンダルを作ります」と宣言した。

● にゃんこの命名札も

猫の命名札まで誕生。顔写真もばっちり入っている

 親戚や近所に配る命名札も、時代に合わせて「進化」している。生まれた子どもの名前や生年月日に加え、出生時の身長や体重、血液型といった文字情報、さらには顔写真まで入ったパターンもある。

 「顔写真入り」のはしりは、那覇市牧志で贈答品などを扱う嘉数商会という。2代目店主の嘉数信太郎さん(52)によると、30~40年前には既に命名札はあった。「きっと喜ばれるだろう」と思い、20年ほど前に顔写真を入れてみた。「パソコンやプリンターが発達してなくて、写真を手で切って、貼って…」

 年間70~80人分を手掛け、猫の命名札まで作っている嘉数さん。従来の細長い短冊タイプのほか、A4やA5の紙にも印刷する。赤ちゃんのきょうだいの写真やメッセージを添える家庭もあるという。「ずっと貼ってると、大きくなってから話が弾むでしょう」と、嘉数さんもうれしそうに話した。

● 県外・外国製でしりしりー

高良商事支店が販売するニンジンしりしりー器の数々。新潟産、兵庫産、台湾産まである。沖縄産はゼロ…

 那覇市松尾の高良商事支店は「台所用品のデパート」とうたうだけあって、ニンジンしりしりー器の取り扱いも豊富だ。木製、ステンレス製、プラスチック製があり、棚の一角を占めている。しかし、この中に沖縄産はない。兵庫、新潟、さらには台湾製が「やさいしりしり」「パパイヤ突き」などの名前で並び、「スカッと切れる」の言葉がひときわ目を引く。

 「昔は農連市場近くの個人鉄工所で作っていた」とは、60年ほど前にこの店を始めた高良亀吉さん(82)の話。ここ4、5年、他県に暮らす沖縄出身者がまとめ買いしていくという。高良商事支店のニンジンしりしりー器の価格は、350~1650円。最安値は台湾製のプラスチック製品だった。

(2017年8月20日 琉球新報掲載)