〝トートーメー〟継いだら、遺産もすべて相続なの? 【沖縄の相続】暮らしに役立つ弁護士トーク(8)


〝トートーメー〟継いだら、遺産もすべて相続なの? 【沖縄の相続】暮らしに役立つ弁護士トーク(8)
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 沖縄の相続問題”のエキスパート・尾辻克敏弁護士の事務所に、最近父親を亡くされたという儀保さんが、相談に訪れました。

 儀保さんはお兄さんから、「長男である自分がトートーメーを継ぐから、父親の遺産を全部もらうよ」と言われて、納得できないようです。

〈儀保さん〉
 先日、父が亡くなりました。母は父が亡くなる以前に他界しています。1500万円ある父の遺産について、兄の太郎と弟の次郎とのきょうだい3人で、話し合いをしました。

 兄は「長男である兄がトートーメーを継ぐから、父の財産も全部もらうよ」と言い張るんです。

 でも兄は父の生前、県外で勝手気ままに暮らし、清明祭やお盆等の行事にすら帰って来ませんでした。それに引き替え、弟の次郎は父を支え、行事ごとを取り仕切り、二人の息子もいます。

 私としては弟にトートーメーを継いでもらいたいと思っています。

 もしも兄がトートーメーを継いだ場合、兄だけが父の財産を全部もらえるのですか?

◇トートーメーや仏壇は「相続財産」なの?

〈尾辻弁護士〉
 今回は、沖縄特有の〝トートーメーの承継〟が絡んだ相続のケースですね。

 トートーメーとは県外で言うところの「位牌」です。沖縄では多くの家庭にトートーメーと仏壇があります。そのため、トートーメーと仏壇を誰が承継するのか、その他の財産をどう相続するのかが、問題になります。

 まず、トートーメーや仏壇、お墓等の祭祀財産は、お金や不動産等とは異なり、相続財産には含まれません。

 位牌や仏壇、お墓などを継いで祖先の祭祀を行う「祭祀承継者」が継ぐと位置付けられます。

◇「遺産相続」と「祭祀承継」は違う!

〈儀保さん〉
 トートーメーや仏壇を継ぐ「祭祀承継者」はどのように決めるのですか?

〈尾辻弁護士〉
 祭祀承継者を決める際に、最も優先されるのは、被相続人の意思ですが、決め方は主に、次の3つのパターンが考えられます。

 1.被相続人が、遺言書等でトートーメーや仏壇を継いでほしい人を指定して決める。
 2.被相続人の指定がない場合、地域の慣習によって決める
 3.被相続人の指定もなく、慣習も明らかでない場合、家庭裁判所の調停・審判で決める。
 ※被相続人の指定がない場合、相続人の合意で「祭祀承継者」を決めることもできます。

〈儀保さん〉
 私たちのケースでは、誰が「祭祀承継者」になりますか?

〈尾辻弁護士〉
 お父さまが遺言書などで「祭祀承継者」を指定していれば、その人がなります。

 具体的には、太郎さんを指定していれば、太郎さんが「祭祀承継者」になります。

 父親が指定していない場合には、地域の慣習によって「祭祀承継者」を決めることになります。慣習でも「祭祀承継者」が明らかでなければ、家庭裁判所で決めることになります。

 家庭裁判所での審判では、被相続人との生活関係などを重視して、誰が「祭祀承継者」に相応しいか判断されることになります。

 次郎さんはお兄さんに代わって父親を支え、行事ごとを取り仕切ってきたのですから、儀保さんの希望の通り、次郎さんが審判で「祭祀承継者」に指定されることも考えられます。

◇トートーメーを継げば、遺産全て相続できるの?

〈儀保さん〉
 仮に兄の太郎がトートーメーを継いだ場合、兄の言うように、兄が父の財産を全部もらえるのですか?

〈尾辻弁護士〉
 いいえ、そうではありません。確かに、県内では、長男がトートーメーを継いで、父親の遺産もすべて承継するという考え方もまだまだあります。

 しかし、トートーメーや仏壇以外の父親の相続財産は、遺言書があれば遺言書に従って分けます。遺言書がなければ遺産分割をして分けることになります。
 ※詳しくは【沖縄の相続】暮らしに役立つ弁護士トーク(4)[https://ryukyushimpo.jp/style/article/entry-517031.html]をご覧ください

 儀保さんと次郎さんが、太郎さんが全財産をもらうことに合意すれば、太郎さんは全財産をもらうことができますが、儀保さんと次郎さんが合意しなければ、太郎さんはトートーメーを継いでも全財産はもらえません。

〈儀保さん〉
 次郎にトートーメーを継いでほしいのですが、トートーメーを継ぐのは何かと大変で、出費も大きいので、次郎に父の財産を多く分ける方法はありませんか?

◇遺言書の作成が、やっぱり大切

〈尾辻弁護士〉
 トートーメーを継ぐ相続人に財産を多く分ける遺言書を作成することをお勧めします。そうすれば、トートーメーを継ぐ相続人に財産を多く分けることができます。

 遺言書がないと、基本的に法定相続分で分けざるを得ません。

 ただ、相続人が儀保さんのようにきょうだい3人だった場合、トートーメーを継ぐことは何かと大変であることを互いに理解し合い、全員が合意の上で相続財産を4等分して、トートーメーを継ぐ相続人に相続財産の2/4、残り2人の相続人に相続財産1/4ずつを分けて、調停で解決したケースもあります。

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― 執筆者プロフィール ―

弁護士 尾辻克敏(おつじ・かつとし)

 中央大学法学部、中央大学大学院法務研究科卒業。司法試験合格後、県内にて1年間の司法修習を経て、弁護士業務を開始。常に相談者の話を丁寧にお聞きし、きめ細やかな法的サービスを的確かつ迅速に提供し、全ての案件に誠心誠意取り組んでいる。
 相続問題・交通事故、企業法務等を中心に取り扱う。相続問題では、沖縄の風習や慣習、親族関係にも考慮した適切な解決を心がける。