「賛成」「反対」の二項対立を止めるのは誰? ウィメンズ・マーチに行って来た!(下) アメリカから見た! 沖縄ZAHAHAレポート(8)


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ピンク色の文字で「ナルシスト」。トランプ大統領へのメッセージ

 昨年に続き、米首都ワシントンD.C.で開催されたウィメンズ・マーチ(Women’s March=女性の行進)。女性蔑視や人種差別的な発言を続けるトランプ大統領に、参加者らはさまざまな形で抗議の声を挙げていました。オリジナルのメッセージやイラスト入りのプラカード、衣装、スピーチ。「こんなのおかしい!」「選挙で私たちの意思を見せていこう!」。女性らの力強い姿が、会場のリンカーン記念堂前、リフレクティング・プールいっぱいに広がっていました。
 

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若い世代の思い。そして、女性だけじゃない

うんこの風船にプラカード。お父さん、お兄さんと少し恥ずかしげなルシアさん。たくさんの人に「写真を撮らせて」とひっぱりだこでした

ピンクのうんこの風船と「私は9歳。そしてめちゃくちゃ怒っている!」という手書きのプラカードを持った少女を見つけました。トランプ氏が、中米やアフリカの国々を「shithole(シットホール)」(直訳は「くその穴」)と呼んだことにかけた抗議です。

ルシアさん(9)は「トランプ大統領は、自分と肌の色が違う人に対してとっても意地悪だと思う。もし、会ったら、『あなたはナイスじゃない。自分と違うからといって他の人に意地悪してはいけない』と伝えたい」と話しました。「いつか大統領になりたい?」と聞くと、「イエス!」とにっこり笑顔。

リフレクティング・プールの周りを囲む参加者たち
若い女の子グループをたくさん見掛けました
オリジナルのメッセージが数多く。もちろん男性も参加!

昨年に続き、職場の友人らと参加し、草の根運動を支援し続けているというサマンサさん(23)には、私が気になっていた質問を投げてみました。

「アメリカは以前より、『分断』していると思う?」

「そうね、党派主義で、分裂は進んだかもしれない。でも、そこは気にしすぎるべきではないと思うし、声が大きな人が、極端なことを強調しすぎなのかもしれない」と一言。「今年は投票に行くよう、声を掛けたり、電話をしたり呼び掛けたい。人と話すことを恥ずかしがらないで、会話の場をつくりたい。ツイッターとかだけでなく、顔を合わせた会話の場が必要だと思う」と答えてくれました。

これまでにも気候変動や科学のマーチに参加したリディアさん( 右から3人目)と高校のお友達グループ

10代の参加者も多く見掛けました。高校の友人と来たリディアさん(16)の話は印象的でした。

「私の家族はイラン人です。トランプ政権の入国禁止令(Travel Ban=トラベル・バン、イスラム圏や北朝鮮などからの入国禁止措置)がすごく影響しています。私は9歳の時に米国の市民権を得ました。今は16歳でまだ投票できず、目の前で起こっていることにすごくフラストレーションを感じています。でも、行動を起こしたいと思って参加しました」

政治が、投票が、いかに日々の生活に、そして若い世代の未来に影響するのか、ぐっと考えさせられました。

会場では男性も多く見掛けました。大学生のトムさん(18)に、「日本では男性が女性の権利のために立ち上がるということは少ない」と伝えると、「今の政権は女性の権利を守っていないばかりか、昔の時代に後退している。今は2018年ですよ。もうこんな権利の侵害が起こらないよう投票しなきゃ。『そんなの問題じゃない』という男性も多くいるのは確かだけど、女性のために 男性こそ、いやどんな性別でも立ち上がるべきだと思う」と答えました。

「彼女と共に立ち上がる」と書かれたプラカードや、シンディー・ローパーの曲にかけたメッセージ、キング牧師の言葉を書いたポスターを持つ男性たち

初参加の大学生、ジェニッタさん(18)は「トランプ大統領は女性の権利を侵害していて、すごく腹立たしい。女性をマッサージの道具としか思っていないんじゃないの」とぴしゃり。「メディアの情報に振り回されているとすごくネガティブな気持ちになるけど、こうやって多くの人々が集まる場所に来ることで、すごくポジティブな気持ちになれる」と友人達と声を挙げました。
 

ハワード大の友人と参加したジェニッタさん(左から2人目)、「目の前で賛同できないことが起こっているのを黙って見ているのではなく、声を届けたいと思って来ました」
壇上ではさまざまな女性たちがマイクを握り、政治参加を訴えました

多様な立場からつながるには

「女性達は、もうこんな侮辱に我慢ができない」「11月の歴史を作ろう」「普通の人々、あなたたち、わたしたちのような普通の人々が立ち上がらなければならない。ホワイトハウスが問題を解決するのを待ってはいけない。そうすれば永遠に待つだけ。メッセージを発するのは、行動を始めるのは、あなただ。ワシントンにいる政治家ではない」。

ホワイトハウス前で「反トランプ」の声を挙げる参加者たち

女性の人権、人種差別、移民政策、環境問題、医療福祉、教育-。トランプ大統領の発言、政策を批判し、女性たちの政治参加を訴える力強いスピーチが壇上で続きました。アメリカにいると、演説の力をしみじみ感じます。その後、ホワイトハウスに向けて行進が始まりました。道中、トランプ・サポーターの若い女性たちが「Make America Great Again」の旗を掲げている姿もありました。

ふと、昨年6月に初めて見た「March for Truth(真実のための行進)」(※参考記事:「表現の自由」って? トランプ政権下のデモはパワフル、カラフルだ) とは何だか違う視点が生まれていることに気付きました。

アメリカのマーチはすごくパワフルで元気が出ます。一方で、最初に見たマーチほど、高揚感を感じないのはなぜなんだろう。私が昨年来、幾度となく開催されてきたマーチを見慣れてきたからかもしれません。そしてもう一つ、実はこの日の取材の中で、私は「白人女性」以外の人々の声を聞きたいと思っていました。

留学時代、専攻の社会学で、Race(人種)、 Class(階級、所得の差)、 Gender(性別)、Ethnicity(民族性)が層を織りなし、差別や不平等をつくりだしているという考え方を学びました。宗教の問題もあります。それが頭に引っかかるのです。女性達は人種や所得の差、性別などを超えてつながり合えるのだろうか。女性だからこそ、多様な立場からつながり合っていけるはず。そう願いながら歩きました。

マーチが終わり、ホワイトハウス前に置かれていったプラカードの数々。夕暮れ前になっていました

そして、あまりに長い間、米軍基地を巡る問題で危険が隣り合わせの暮らしを強いられ、「賛成」「反対」で分断されてきた沖縄のことを思いました。日本でも起こっているヘイトスピーチのことも。基地を巡って繰り返されてきたこれまでの県民大会と、アメリカでのマーチは、少し似ている感じがします。そして、この場に来たかったけど来られなかった人、来たくなかった人、それどころではなかった人-。ここにはいない「多くの人」にも思いをはせてみたいのです。参加して終わりではなく、毎日の暮らしの中で、多様な立場にある人々同士がどのようにつながり合えるのかということを。

 

“The ultimate tragedy is not the oppression and cruelty by the bad people but the silence over that by the good people.”

Martin Luther King, Jr.

「最大の悲劇は、悪人による抑圧や暴力ではなく、善人の沈黙である」

マーティン・ルーサー・キングJr.

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 座波幸代(ざは・ゆきよ)  政経部経済担当、社会部、教育に新聞を活用するNIE推進室、琉球新報Style編集部をへて、2017年4月からワシントン特派員。女性の視点から見る社会やダイバーシティーに興味があります。