お笑いトリオ「初恋クロマニヨン」の松田正(まつだ・しょう)さんがナビゲーターとなり、沖縄県内で活躍する芸人さんにインタビューする「沖縄芸人ナビ」。 今回は同年生まれでもある知念臣悟(ちねん・しんご)さんを訪ねました。共通するお笑いシーンを見てきた二人ですが、こんなにじっくり語り合うのはなかなかレアな2ショットですよ!
(執筆:フリーライター・饒波貴子)
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知念臣悟さん(左/FEC所属 http://www.fec.okinawa/)とナビ芸人の松田正さん(よしもとエンタテインメント沖縄所属/http://yoshimoto-entertainment-okinawa.jp/)。臣悟さんは「琉球歴史ドラマ『尚円王』(琉球放送にて2月12・19・26日20時から、水曜日3週連続で放送)」で主役を演じます。
ジャッキー好きでマブヤーに
松田ナビ:僕とは年齢が同じでFECに在籍していた縁もあり、昔から知っている臣悟。やっぱり意識しますし、間もなく放送の「琉球歴史ドラマ『尚円王』」では主役に抜てきされてスゴイです! これまでヒーロー物はじめ数々の作品に出演してきましたが、今回はどうでしたか?
臣悟:今年36歳。今までいろんなドラマに出させてもらってきたけれど、正直もう出演のチャンスはないかなという気持ちでした。実は今回、最初オーディションに落ちたしね。
松田ナビ:20代の若手や役者さん、芸人さんたくさんいるしね。落ちてどうやって敗者復活できたわけ(笑)!?
臣悟:自分の年齢に近い役のオーディションを受けて、その役は他の人に決まった。でも翌日「復活しました」と連絡をいただきました(笑)。尚円王の50歳前後を描いたドラマで、実年齢より10歳くらい上の設定だから厳しいと思っていた。実は夏のお笑いコンテストのリハーサルの最中に知らせがあり、うれし過ぎてコンテストでも優勝すると思ったな〜(笑)。
松田ナビ:リハの時確かにノッてる感じした! 役者としての自分とはどう向き合ってきましたか?
臣悟:子どものころからジャッキー・チェンさんが大好きだから、演技には興味があった。映像やアクションに挑戦したいと思っていたから、『琉神マブヤー』を演じた時は最高にうれしかったよね。芸人同士では「臣悟は役者だよね」ってイジられるので、最初のうちは「違う、芸人だよ!」って返していました。でも6年くらい前に、そんな風に言うのは役者を本業としている人に対して失礼だと気付き、枠に当てはめなくていいと考えられるようにもなって、ドラマに出た時は「役者です」って言えるようになってきました。
松田ナビ:それが正しい方向なのかも。面白い事を言う女性が「芸人だもんね」と周りに言われ、「私芸人じゃありません!」とか否定しているやり取り見ると、腹立つ時あるもんな(笑)。それと一緒かも!?
臣悟:そんな気持ちでいるなら「やるな!」って言われそうだよね。反省したので最近は「役者さんにも絶対負けたくない」という気持ちがより強くなり、演じることも一生懸命やっています。
松田ナビ:でも最初は苦労したでしょう?
臣悟:2008年のマブヤー役で俳優デビューしたけれど、事務所の社長である山城智二さん、先輩芸人のハンサムさんも出演していたので背中を見て学んだ感覚。演技どうこうではなく、感情でどうにかなると思っていた。
松田ナビ:演技の勉強をしてきたわけではないし・・・マブヤーを演じきったことは修行感覚でしたか?
臣悟:多分俺・・・自分が好き(笑)。
松田ナビ:好きそうだな〜って気がしてた(笑)。
臣悟:本当に自分が好きなんだはず。顔が大好きってことではないんだけど、朝起きて鏡の前に立ったら表情をめっちゃ変えるわけ。テレビの仕事がある時は、その回数がグッと上がります。セリフを言いながら表情を変えたりして、それが演技につながっているのかも。でも1人の時しゃべったりしない?
松田ナビ:しゃべる! 例えばさっきもパーキングに車停めてしばらく車内にいたんだけど、結構時間が経ってから下のストッパーが上がってきて「いや、遅いだろ!」とか言っちゃうよ(笑)。
臣悟:そう! そんなツッコミするさ。俺はいない人とずっと会話する。車体の下のストッパーが「ウィ〜ン」って上がってくるさ、その時「ここから料金発生してる? どう思う?」ってまず聞く。いない人が返事をした設定で、「発生してるのか〜」って答えたり(笑)。
松田ナビ:臣悟とお兄さんの知念だしんいちろうさん、兄弟で暗い性格だな〜(笑)。M−1グランプリで優勝したミルクボーイさんのネタを、しんいちろうさんが「ウチナーグチで作ってみた」ってTwitterに書き込んでいて「暗いな、この人」と思っていたところだった(笑)。臣悟は芸人になったころ「うりずんマリンハント」というコンビを組んで若手のホープとして注目されたけど、後に解散。それからしばらくピンで活動していましたが、めちゃくちゃ暗かった印象です。その時の心境は覚えていますか?
臣悟:しがみついていただけだと思う。舞台から降りたくなかったというか。いいネタ出来ていないから舞台に出ないと言ってしまうと、芸人活動は終わりという気がして・・・何かネタを作らないといけない、って追い込んだよね。
松田ナビ:ドギツイ発言していたのを覚えている(笑)。「荒れている時かな?」って当時思っていたけれど、スグに『琉神マブヤー』の主役に選ばれたり、大田享(おおた・あきら)さんとのコンビ「パーラナイサーラナイ」を結成したり。臣悟のセンスあってこそだけど、運が味方しているかもしれないね。
臣悟:自分は「運の塊」だと言ってもいいくらいだと思う。アクションがやりたくてお笑いの中でアクション対決するイベントを開催したら、岸本司監督がそれを見に来ていて『琉神マブヤー』出演のきっかけになりました。俳優さんとのつながりで広がりもあります。アクションもダンスも自己流なんだけどね。
松田ナビ:自己流で仕事になるのは本当にスゴイ! アクションはジャッキーの映画で学んだわけでしょ。
臣悟:そう。4歳くらいの時、お母さんがテレビ録画してくれた『サンダーアーム』をずっと見ていたのを覚えている。初めて演出を担当したお笑いライブのタイトルは「ジャッキーしちぇ~ん」にして、ジャッキーの話題をいろいろ盛り込みました。
松田ナビ:僕その時、舞台監督だったかも(笑)。お笑い好きなのはもちろんだけど、臣悟の入り口はジャッキー・チェンさんですね。
臣悟:ジャッキーさんは今も大好きだし、ドラマなどでアクションシーンがあってその場に居させてもらえるのは、めっちゃうれしい! お笑いの舞台に出た時と同じくらい、アクションを演じることも楽しいです。
初ネタ披露の相方はお兄さん
松田ナビ:いろんな人にリサーチすると、「臣悟はとにかく甘えん坊」という声を聞きました。しっかり者のイメージだったから意外だった。
臣悟:甘えん坊なとこ、めっちゃある(笑)。今、このインタビューは正が仕切ってくれているから待ち状態だし、兄の知念ださんがいるとフッと肩の力を抜く。プライベートでは初めてキャン×キャンのゆっきーさんと飲んだ時、同席していたノーブレーキのポジティブあゆむがずっと突っ込んでいたので、僕は観客になってず〜っと笑っていた(笑)。
松田ナビ:なるほど! それは臣悟の技だろうな。こきざみインディアンさんのテレビ番組で知念兄弟が出た時、本来は2人ともツッコミに回りそうなポジションで、しんいちろうさんはその通りにツッコんでいた。でも臣悟は番組側に乗っかる立ち回りになり、「これは臣悟の手なのか!?」と思ったよ。自分のポジションを探したのかもとも感じたけれど、単純に任せたってこと(笑)!?
臣悟:理不尽なフリを受けたこきざみさんが、すごく楽しそうでいいな〜と思ったわけさ。だから僕もこきざみさん側に行きたくなって立ち位置をチェンジした(笑)。
松田ナビ:そういうことか! お笑いをやっているとイジるかイジられるかの立ち位置になるけれど、どっちのタイプ?
臣悟:人に合わせていけるかもしれない。
松田ナビ:順応タイプ。イジられることもイジることもある!?
臣悟:どっちもある! 後輩にも先輩にもフィットして一緒に気持ち良くなりたい。その方が「楽しい」が多くなるもんね。
松田ナビ:チームプレーの気持ち良さ! 僕もイジりたいしイジられたいから同じ感覚だし、何色にでもなれる臣悟の強みと思えるな。ところで、ご両親は警察官だったと聞きます。厳しかったですか?
臣悟:人と比べたことはないけれど、中学のころの門限は夜7時。過ぎたら母が横に竹刀を置いて正座して待っていたよ。空手の黒帯所持者だから竹刀は使わないけどね。
松田ナビ:それは結構厳しめ! 竹刀は脅し(笑)!? でも一家族から芸人さんが2人も出るのはスゴイと思える。昔から兄弟で笑わせていましたか?
臣悟:あったね〜。ネタらしいことを初めてやったのは僕が小4で兄貴が中1の時。兄貴はもう「すぱるたいんづ」というコンビを結成していて、そのネタを崩して親戚の前でやったはず。笑ってくれたけれど、面白かったのではなくてかわいくて笑ってくれたかもしれないね。兄貴はそれからコンビを続けて学園祭などの舞台に立ち、高校卒業後は友達とお笑いライブを開催していた。その手伝いを高2の僕がやるようになったので、お笑いに関わるのはそれが始まり。
目標は音楽フェス出演!?
松田ナビ:人を笑わせて運動神経の良い臣悟は、人気者だったんだろうな〜。
臣悟:中学生まではね(笑)。ナインティナインさんの深夜ラジオを聞いていたり、ダウンタウンさんのビデオを見たり、お笑いに詳しくてボケを言い合っているようなメンバーの一人だった。
松田ナビ:コアなお笑いを押さえている、良いグループ!
臣悟:部活しているスポーツ系もヤンキー系も、ゲーマーたちとも・・・みんなと上手くやっていた。
松田ナビ:今の臣悟のスタイルと一緒だ(笑)!
臣悟:でも高校に入ってからは真逆で、性格暗めで友達が作れなかった。住んでいた宜野湾市の地域は、小中学校のメンバーがほぼ一緒。新しい友達を作る方法が分からず、高校に入るとみんな悩んだよ。とりあえず当時流行っていたジャパレゲ(ジャパニーズレゲエ)を頑張って聞いたんだけど、兄貴の影響でTHE BOOMしか聞いていなかったからピンと来なかった(笑)。限界が来てもう無理だって思ってパタンとふたを閉じ、地味な3年間を過ごしました。兄貴のライブを手伝ったりする学校以外の場が楽し過ぎたのかも。高校生のころはバレンタインチョコは一個ももらわなかった。
松田ナビ:今はイケメンと言われる臣悟が、パタッと閉じる時があるんだ! 気持ちの上がり下がりが結構激しい(笑)!?
臣悟:激しいというか、隙間がないくらいパタンと閉じる(笑)。
松田ナビ:極端。でもマブヤー演じて享さんとコンビを組んでからは開きっぱなしだな〜って思う。今までの人生ストーリーを聞くと、耐え忍んだ時期があったり、人としての厚みを感じる(笑)。享さんは先輩ですが、仲良くやっていますか?
臣悟:先輩後輩の関係だけど、人見知りなところが似ている遊び仲間だった。でも年齢も出身地も違うから、学生のころから培ってきたような共通言語がないわけさ。それがいい面もあるし、「あれ!?」って感覚が出てくるときもある。ネタ作りはだんだんパーソナルな深い部分に入っていくからね。
松田ナビ:そうだな、地域が違うし性格も全然違うからな。僕のトリオは地元が一緒なので、「もういいよ、その話!」とか「これだけ一緒にいるのに、そのくらい分からんか!?」みたいな、お互い横柄な感覚が出てきたりする(笑)。だから全然違う環境で育った方がいい関係築けるんじゃないかと思え・・・パーラナイサーラナイさんのコンビの関係性をうらやましく思ってきたけどね。どっちが良いという決め方はできないのかな。
臣悟:無いものねだりになってしまうかも。結成して12年くらいだけど、これから10年後くらいの関係性がどうなっているかだよね。僕が事務所に入ったきっかけは、FEC主催の「フレッシュお笑い選手権大会」というアマチュア大会を初めて見て、初恋クロマニヨンが優勝したこと。それがとっても悔しくて、1年間ガッツリ経験磨こうと決めて事務所入リしました。
松田ナビ:その時の臣悟はモバイルプリンスを相方に「うりずんマリンハント」というコンビで出場。1年後にしっかり優勝したよな。大体同じ時期に活動を始めたけど、僕らと同じ日にFECに入ったのはゴリラコーポレーション。琉大学園祭が初ステージでゴリラがめっちゃウケてた。僕たち全然ウケなかったから腹立つわ〜てなったの覚えているし、芸人はみんな怖い雰囲気を持っていた時代。
臣悟:初恋クロマニヨン怖かった〜。面白くないヤツはしゃべるなよ、って空気だったよね(笑)。
松田ナビ:僕も面白くなかったけどね(笑)。自分以外は面白くないぜ、って尖っている芸人さんは多いと思うけど、最初から臣悟はそんなタイプじゃなかったね。
臣悟:だってなりたかったのはジャッキーだから! もしジャッキー勝負だったら、お前より僕が詳しいって競ったかもね(笑)。
松田ナビ:対抗するポイントが違ったんだ(笑)。でもそれは大事なことで、ジャッキー好きを貫いた臣悟だったからマブヤー出演のチャンスが来たと思う。そしてしっかりとしたイメージを持っているから、何度も主役に選ばれるはず。ドラマ『尚円王』は撮り終えてどうでしたか? 撮影中に首里城火災がありましたね。
臣悟:全3話、8日間で撮り切りました。首里城火災が発生したのは撮影最終日で頭で理解することができず、全員喪失感を感じながら首里城を思って撮影を終えました。2月放送ですので、視聴者のみなさんが琉球の歴史と首里城に興味を持ってくださるといいなと願っています。
松田ナビ:サラッとさりげなく主役になる臣悟に憧れます。お笑いを含んだエンターテインメント全般へのポリシーを教えてください。
臣悟:僕のポリシーは「気持ちいい」。気持ちいいところに迷いなく進んでいくことです。おいしいものを食べた時やたくさん稼いだ時、気持ちいいじゃないですか。芸人になって初めて大きい笑いを取った時もすごくいい気持ちになったし、ジャッキー好きな僕は初めて人前でアクションやった時、それが映像になった時、見た人が褒めてくれた時、いい気持ちになった。新しい「気持ちいい」を感じたいし、感じていたら止まりません。歌が下手な僕だけど、目標はフェス出演。誰かのフェスに呼んてもらい、ステージで「みんな元気〜!?」ってヤツがやりたい!
松田ナビ:めっちゃ気持ちいいやつ〜! 「みんなノッてるか〜?」ってやりたい男が臣悟だな。スッと心に落ちました。逆に気持ち良くないことはやりたくないでしょうが、今日のインタビューは気持ちいいですか(笑)?
臣悟:今、気持ちいい! とっても気持ちが良い! 気持ち良くないことは、正直言えばやりたくないですね。
松田ナビ:最後に今後の展望を聞かせてください。
臣悟:漫才やコント、コンビネタをずっとやって来ましたが、今さらながらもっといろんなことがやりたい。役者とお笑いはあまり混ぜて来なかったけれど、今はすごくミックスしたいです。そしてお笑いコンテストで優勝したい!
松田ナビ:臣悟が培ってきたものを生かしていくんですね。
臣悟:自分の持っているものを惜しまずに出し、いい作品を作っていきたいです。そしてやっぱりお笑いで優勝!
松田ナビ:納得。ありがとうございました。
【対談を終えて・・・】
☆臣悟さん☆
こんなに長い時間正と一対一で話したのは初めてでした。普段自分の話はあまりしないので、たくさん質問してもらえて気持ち良かった(笑)! 自分はとても注目されていると思える、楽しいインタビューでした。
☆松田ナビ☆
昔はカッコ付けていたと思いますが、今はカッコ付けていることさえもキャラクターにしている。フェスで「みんなノッてるかい?」とやりたいのは臣悟らしい(笑)。潔さとさりげなさを兼ね備えている、美しい男です。
【プロフィール】
★知念臣悟(ちねん・しんご)/パーラナイサーラナイ
生年月日:1984年11月27日
出身地:宜野湾市
趣味・特技:ヌンチャク、ジャッキー・チェン アクション鑑賞、ダンス、漫画
Twitter:@chinenshingo
★松田 正(まつだ しょう)/初恋クロマニヨン
生年月日:1984年8月22日
出身地:読谷村
趣味:ソフトボール/漫画
特技:野球
Twitter:@hatsukoimatsuda
【インフォメーション】
FEC でーじお笑い劇場
日時: 2月15日(土) 18:30開場/19:00開演
料金:前売り1500円/当日2000円(高校生以下、前売り当日共に1000円)
内容:「パーラナイサーラナイ」他FEC芸人が三ヶ月闘争!
1月から3月まで3チーム対抗のリーグ戦を行います。
会場:那覇市ぶんかテンブス館4階 テンブスホール(那覇市牧志)
お問い合わせ:FECオフィス
☎︎ 098-869-9505 (平日10:00~19:00)
公式サイト==> http://www.fec.okinawa
よしもと沖縄花月フライデーナイトライブ(YOFライブ)「よしもと-Uchinah-ランキング」
日時:2月14日(金)19:15開場/19:30開演
料金:前売り・当日ともに1000円
ゲスト:囲碁将棋
内容:よしもと沖縄芸人全組出演!お客様の投票でランキングが決定します!
会場:【よしもと沖縄花月】
那覇市前島3-25-5 とまりんアネックスビル2階 (マップはこちら)
お問い合わせ: 098-943-6244
公式サイト==> http://www.yoshimoto.co.jp/okinawakagetsu/
饒波貴子(のは・たかこ)
那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。