沖縄県立芸術大学の工芸専攻は「陶芸、染、織、漆芸」の分野を学べる。その中でも「漆芸」は新しく加わった分野だ。今回取材で訪ねた「漆芸」院生の教室には、取材した大城史織さん以外にも院生2年の島袋香子さんと同期の上江洲安龍さん、担当教員の水上先生も偶然顔をのぞかせてくれ、「なんてアットホームな研究室なのだろう」と温かい気持ちになった。
生き物に触れるように
作品を見ながら話を聞いていると、冷凍庫に保管している素材の「堆錦餅」と呼ばれる漆の塊を取り出して、触らせてくれた。平たい形状で赤い漆。「触るとかぶれる人もいるんですよ」と話しながら、彼女はまるで生き物に触るように漆を手のひらに載せていた。大城さんの言葉、ふるまいのひとつひとつに「漆」への愛が溢れていた。
高価な素材の漆。それゆえに日常の生活のものというより、「ハレ(非日常)」のものとして扱われている。しかし漆は、酸にも強く熱にも強いという特性があり制作するうえでとても魅力的な素材だという。
大型スタンドライトの作品「流」は学部の卒業制作だ。
海ほたるをモデルにして水の循環を表現した。
波打ち際の波の動き、水泡、水蒸気を表現し、金色の部分は雲へ還っていく水を表した。自然の中の「循環」というサイクルを乾漆、箔絵で制作したものだ。
大城さんは「軽いんですよ」と言いながら持ち上げてくれた。
私も真似してゆっくりと持ち上げてみたら、想像以上に軽くて驚いた。
作品を縁取る柔らかい曲線が美しい。
眺めていると、この楕円のなかを熱帯魚が泳いでいるように思えたのは「動」。
光に反射する波模様をイメージさせる作品だ。二枚貝を全体の形として作成し、その中で「ベタ」という魚の尾にある独特な〝揺らぎ〟を乾漆技法で表現した。
漆が彩る日常に
水の流れや流線型の作品から一転し、幾何学的な美しさを堪能できるのが「灯り花」。
鮮やかな青い花模様の作品で、オレンジ色のライトに浮かび上がる花びらの繊細な幾何学的なカットが美しい。
大城さんの創作の中心にあるのか「アートを生活に」という思いだ。
日常使いできるアクセサリーを昨年の芸大祭で発表するなど、高価で現代的にアレンジされたデザインがまだ少ない「漆」を、できるだけ身近な存在のアートにできればとの思いで日々取り組んでいる。
そんななか、昨年制作した「花鞠」は、今年6月にイタリアで開催されるミラノ・サローネに大学の工芸の仲間たちと作品を出品することが決まった。沖縄県立芸術大学として初の出展で、イタリアでの評価は間違いなく今後の大きな力につながるだろう。
「技法・技術の継承は労力が必要なんです」
試行錯誤をしながら素材との関係を模索し制作を続けていけるのは、きっと彼女の持ち前の明るさと職人気質によるところが大きいだろう。
漆器の装飾技法である沈金。道具を自ら作り、地域によって技法も違う。漆について学ぶことはまだまだ多いと語る。
伝統工芸は「手わざ」の世界。
今回の取材では、その努力と集中力は並大抵のものでなはいと改めて感じた。
【大城史織 プロフィール】
大城史織(おおしろ・しおり)
1996年 沖縄生まれ
2015年 沖縄県立開邦高等学校、芸術科を卒業後、沖縄県立芸術大学、工芸専攻へ入学
2019年 沖縄県立芸術大学 漆コース 卒業
現在 沖縄県立芸術大学大学院 修士課程1年(漆工研究室 在籍)
Twitterで情報や漆の活動など発信中。
https://twitter.com/shio0870
[主な出展歴]
2018年
10月「あいづまちなかアートプロジェクト」会津若松市で開催
2019年
1月 「CYCLE展 創造するエネルギー」OIST沖縄科学技術大学院大学
2月 「沖縄県立芸術大学卒業修了作品展」沖縄県立博物館・美術館 企画.県民ギャラリー
5月 「漆芸の未来を拓く-生新の時2019-」石川輪島漆芸美術館
10月「あいづまちなかアートプロジェクト」 会津若松市で開催
11月「彫刻の五・七・五 」沖縄県立芸術大学附属図書・芸術資料館 [浦添市美術館]
2020年
1月「CYCLE展 創造するエネルギー」 OIST沖縄科学技術大学院大学
***********************
今後
6月 ミラノサローネ 工芸グループ展示
9月 パレットくもじ(デパートリウボウ)6階 催事場にて沖縄県立芸術大学、工芸のグループ展示、販売予定
【筆者プロフィール】
本村ひろみ
那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。