高校生だった山城皆人さんが、「ニライカナイ」というコンビでお笑いコンテスト「O-1グランプリ」のチャンピオンに輝いたのは2014年のお正月。あれから6年・・・ラジオやテレビで活躍し、ユニット「平成一揆」を立ち上げ、19年にはコンビ「サイレントインファイト」を結成。活動を広げる皆人さんの今を、ナビゲーター役の「初恋クロマニヨン・松田正(まつだ・しょう)」さんが直撃します!
(執筆:フリーライター・饒波貴子)
「沖縄芸人ナビ」は「週刊レキオ」(毎週木曜発行)と連動中。毎月第1週のレキオに関連記事を掲載していますのでご覧ください。
山城皆人さん(右/FEC所属 http://www.fec.okinawa/)とナビ芸人の松田正さん(よしもとエンタテインメント沖縄所属/http://yoshimoto-entertainment-okinawa.jp/)。お笑いにかける思いや性格面で、共通点がありそうな2人!? ソーシャルディスタンス(社会的距離)を取りながら対談していただきました。
お笑いだけにとどまりたくない
松田ナビ:FECは若い芸人さんの勢いがすごい! その筆頭が皆人と思っていますが、今年24歳!?「O-1グランプリ」で優勝したのは高校生の時だった!? 当時の気持ちは覚えていますか?
皆人:24歳ですが、筆頭かどうかは分かりません(笑)。O-1優勝は高校生で17歳でした。当時は手応えがあった訳ではなく、高校生が頑張っているからと応援してくれた方が多かったかなと思います。
松田ナビ:当時のコンビ名は「ニライカナイ」。新しい世代が出てきたと勢い感じ、優勝する空気が会場に流れていたと記憶しています。
皆人:そんな空気ありました!? その前年に一回戦で落ちて、強めの挫折を味わっていました。
松田ナビ:高校生くらいだと、「自分たちが一番面白い!」という気持ちあるから、落ちたら腹立つよね(笑)。
皆人:そんな偉そうな事は言えませんが(笑)、若さ故の劣等感のようなものがあり、一回戦は絶対通りたくて結構稽古しました。学校帰りに毎日事務所に行き、社長にネタ見せしていたんですよ。
松田ナビ:FECの社長・山城智二さんは、皆人のお父さんの弟なのでおじさんに当たる人。その時もう事務所に入っていたんだね。智二さんはどんなアドバイスをくれましたか?
皆人:O-1に出場が決まり、FEC所属のコンビとして出場したくて事務所に入りました。ネタを1つ1つ細かく表現することを教わり、ネタ見せの前後を映像で確認すると全然違うなど、表現に関して学んだ時期でした。
松田ナビ:おじさんである智二さんに、いざネタを見てもらうとどんな感覚に(笑)?
皆人:相当印象が変わりましたよ。普段会っていたおじさんが、「ただ者じゃない!」と全く違う感覚になりました(笑)。
松田ナビ:そこからO-1で優勝を勝ち取り、若くして沖縄一になった訳だけど、その後どんな風に過ごしましたか?
皆人:テレビやラジオ出演など、ありがたい経験をさせてもらいました。でもニライカナイは、お互いの進路もあり、高校生の間だけの活動と決めていたんです。
松田ナビ:期間限定だったんだ! その後はクーターシンカ、今はサイレントインファイトとコンビを経験。そして平成一揆というユニットでYouTubeチャンネルをやっている。
皆人:ニライカナイの後は1年くらいピンでやって、大学生になってもお笑いをやりたい共通の思いがあった同級生の新垣勝利(あらかき・しょうり)と、クーターシンカを結成しました。勝利は大学卒業後、東京でお笑いに挑戦したいと上京したので、コンビ活動を休止したんです。
松田ナビ:現在のコンビ、サイレントインファイトの相方は大城陸(おおしろ・りく)さん。コンビのハンドルを握っているのは皆人?
皆人:そうです。過去の相方は同級生で譲り合えないことが多々ありましたが(笑)、今の相方は1つ年下で初めて余裕を持てました。ネタについては遠慮なく言ってくれるので、コンビ特有の意見の衝突もありません。
松田ナビ:高校生でO-1優勝や、いろんなコンビ活動も経た皆人の経験値はすごい! 若い人はいい意味で、コンビやトリオにこだわりがないのではと思った。何人か集まってユニットで面白い舞台を作った方が効率いいやし〜、みたいな考えがあるんじゃない?
皆人:だんだんこだわりがなくなってきました。コンビでもユニットでも最終的には、個の力が見せ所だと相方と話しています。歌ったり、ラジオをやる「ハイアップロー」と、ライブやYouTube配信をやる「平成一揆」。どちらのユニットにも力を入れていますが、最近は「平成一揆」のYouTubeチャンネルを、沖縄のバラエティーメディアとして確立できるにはどうしたらいいか、相当考えています。
松田ナビ:若い芸人さんはフットワーク軽くいろいろできそう。
皆人:お笑いだけにとどまりたくないと思っています。2つの賞レースで優勝している正さんたちは、お笑い一本ですごいです。飽きっぽい僕は、熱が入る時期と入らない時期があるんです。もちろんベースにあるのはお笑いですが、新型コロナの影響でライブの休止も続き、今はネタを作っていません。正さんは熱量の波ってありますか?
松田ナビ:もちろんある! ネタなんか考えたくないって思うけど、他にやることないから考える(笑)。でも、そんな流れはこの数年で変わっていると感じるよ。ネタを作るモチベーションが上がらないならYouTubeの企画を考えるなど、気持ちが上がる方をやった方がいいと個人的には思っています。何かにとらわれ過ぎて、他の可能性をつぶすことはしたくないよね。
皆人:いろんなことをやってみたい。賞レースに挑戦する時は本気でお笑いに取り組みますが、それ以外の時間にも何かできないかなと考える。FM沖縄で「Radio dub(ラジダブ)」のパーソナリティーをやるようになったこの数年で感覚が変わったんです。
おっさんっぽい20代!?
松田ナビ:皆人のラジオ、めっちゃ聞いている! 感覚が変わったとはどんな風に?
皆人:言葉の表現を突き詰める意識と、お笑いのネタが全てではないことです。番組宛に来る学生さんのメッセージから、好きなものが分散していると分かりました。テレビっ子だった僕はラジオの仕事をやるようになって、ラジオリスナーさんの考えを知りました。YouTubeも勉強のために見始めて、舞台に立つ僕たちとの違いはなんだろうと考えてます。企画力や発想などのメカニズムが違うとは思いますが、どちらにせよ負けたくない! いずれまたお客さんの前に立つ僕たちが強くなる時代が来るはずだから、生の観客を相手にしている芸人の強みが出せる日が来るまで頑張りたい! 「この人たちの舞台が見たい」と思ってもらえるように動こうと考えるようになりました。
松田ナビ:画面を通して発信するユーチューバーたちと、舞台に立って人気を得たい僕たち。もしユーチューバーをすごいと認めたら、今までの自分を否定してしまう気がする・・・。なので、今の状況を受け入れられない自分がいるんだけど(笑)、何とかしないといけない時代になっていると感じるな。
皆人:僕は早い段階でお笑いを始め、正さんの世代やその上の人たちと一緒にやる機会をたくさんいただきました。「平成一揆」は平成生まれで結成したユニットですが、メンバー間の考え方がこんなにも違うと気付いた時もあり、年齢の割に自分は古いタイプだと感じます。
松田ナビ:年齢とか関係なしに、僕の勝手なイメージは「皆人はちょっとおっさんくさい」(笑)。若いんだけど、他の人と比べると異彩を放っていると思っています。
皆人:否めません(笑)。趣味も上の世代に関連しています。親戚のおじさんがプロレスファンで、その影響でプロレスが好き。三沢光晴さんが大好きなんです。親の影響でガンダムも好きですね。
松田ナビ:皆人にとっておじさんの存在はデカイな〜! 智二さん含めおじさんからさまざまな影響を受けている。
皆人:そうなんです、影響はおじさんから(笑)。自分よりも若いラジオリスナーと時間を共有するようになって、自分が変わってきたと実感しますが、パーソナルな部分を出した話をすると、40代の方々からもどばっとメッセージをいただきます。
松田ナビ:若い人たちと話ができて、おじさんたちのハートもつかめるとは。強みがたくさんあって素晴らしい!
皆人:いろんな世代の心に刺さる情報は入れておきたいですし、さまざまな考えからの刺激も必要だと思っています。
松田ナビ:皆人はサブカルチャー好きなイメージもある。
皆人:音楽も、ラジオをやるようになってOfficial髭男dism、あいみょんなど流行りのアーティストを聞くようになりました。今まで同級生と共通の話題で盛り上がることがあまりなくて、みんながAKB48やGReeeeNが好きな中、僕はブルーハーツや忌野清志郎さんを聞いていました(笑)。去年の忘年会で中学校の仲間に久しぶりに会ってカラオケに行ったら、ヒゲダンなどを歌っていたので、「同級生も旬の音楽を聞いている!」とハッとしました。ラジオをやっていなかったら楽しめなかっただろうし、旬のものを取り入れる大切さを実感しました。
松田ナビ:ラジオが学びになっているようだけど、舞台上でもオールドスタイルがにじみ出ているよね。
皆人:舞台は好きですが、舞台が全てではないと思っています。僕たち芸人がアウトプットする場所といえば舞台ですが、ネタに変換せずに直で発言できるラジオのありがたさを感じています。またYouTubeはマナーを守りつつさらに自由な面があって、やりたいことをよりやれる。舞台・ラジオ・YouTube、それぞれの表現の場を使って、相互的に良くなっていくと感じています。
松田ナビ:FECの若いメンバーの中ではリーダー的な存在と言える?
皆人:そうですね、「平成一揆」は僕が立ち上げたユニットです。先輩と世代間のギャップを感じる時期があったので(笑)、若手だけで自由にできる場を作って盛り上がろうという気持ちで結成しました。コロナウイルスの影響が出る前は定期的にライブをやってお客さまが徐々に増えてきて、今年からYouTubeを始めました。ヒゲダンの「Pretender」の替え歌で、Official 比嘉男dismとして「比嘉なんだー」をライブで歌ったらバカうけしたので、ミュージックビデオ風にしたらいいのでは!? と話して動画を作ってアップしたらSNSとYouTubeで結構バズったんですよ。お客さんの爆笑を生で確認できるのは舞台の強みですから、これからは替え歌も発表したいと考えています。
ファニーズの漫才に爆笑!
松田ナビ:山城智二さんは事務所の社長でありおじさんでもあるけど、関係性はどういう感じ?
皆人:仕事の話になると敬語になりますが、子どものころから「ともじ」と呼び捨てにしていました(笑)。事務所に入る時に高校生ながらに使い分けましたが、「社長」と呼んだらすごくショックだったみたいです。「百歩譲って仕事で社長と呼ぶのはいいけれど、家族の集まりでは止めてくれないか」って真剣に言われました。距離を感じたらしいです(笑)。今は場面に合わせた呼び方をしていますが、おいっ子だからといって呼び捨てにするのは嫌ですし、かといってさん付けも気持ち悪い(笑)。だから仕事ではやっぱり社長です。
松田ナビ:ボーダーラインがなかったけど作っているんだな(笑)。社長のお兄さんである皆人のお父さんは、FEC創設者の山城達樹さん。お父さんはお笑いを始めるきっかけになったりしたのかな?
皆人:そうではないんですよ。小学生のころからテレビでネタ番組を見ていたので、東京で芸人をやりたかったんです。そこで、たまたまおじさんが沖縄のお笑い事務所の社長で、素人でも出場できるライブがあると知り、同級生と盛り上がって「ニライカナイ」を組み挑戦しました。事務所に入ってから社長のすごさ、親父が生きていたころのすごさを知ったんです。
松田ナビ:僕は皆人のお父さんにお会いしたことはないけど、テレビで見ていた。先輩方の話ですごい方だったと知ったし、その息子がO-1グランプリに出ると聞いた時は特別な気持ちになりました。
皆人:ドラマチックにされるのは大嫌いなんですよ。「違う違う、全然影響受けてないし!」と言いたい。でも親父はすごいと、とても思っています。というのも2年前に初めて親父がやっていたコンビ「ファニーズ」の漫才を見たんです。それがめちゃめちゃ面白かった! 僕が生まれる前にこのクオリティーで漫才をやっていたんだと衝撃で・・・。今でもガハガハ笑えるもので、本当にすごいなと思えます。それまでは親父のネタは見たいと思ったことはなく、FECのライブは年に1回母親と見に行く程度でした。
松田ナビ:小さいころは、おじさんがお笑い事務所やっている意識もなかった?
皆人:ピンと来てなくて、舞台にともじがいるな〜くらいの感覚で、当時は面白さも理解できなかった。昔も今も好きな芸人さんは東京03さんとトータルテンボスさんで、一番影響を受けた番組は『爆笑オンエアバトル』。3年くらい前にNHKの番組オーディションが沖縄であって、こびを売る訳ではなく真剣に「僕は『爆笑オンエアバトル』がなければお笑いはやっていません」と伝えました。そのプロデューサーさんがたまたま「爆笑オンエアバトル」を作った方で、心が震えましたよ。ありがたいことにオーディションに受かり、司会のおぎやはぎさん他テレビで見ていた人たちと全国放送の番組に出演できました。思い出すと夢見心地です(笑)。
松田ナビ:県外で活動するのはとてもすごいことだけど、沖縄で活動していて出演できるのもすごい!
皆人:東京のお笑いはキラキラしています。でも沖縄でやる意味と面白さが絶対にある! 沖縄にはFECという団体があると評判になって東京に行けるといいな、とイメージしています。主戦場は沖縄だけど東京にも呼ばれるように。実現している先輩方もいるので、僕たちもそんな活動ができたらいいなと思っています。
松田ナビ:今はその可能性がある。だからこそ、動画配信などいろんなところに目を向けた方がいいよね。何かポリシーはありますか?
皆人:特にないんです(笑)。何やってもいいのがお笑い。役者をやってもバンドやっても、芸人だから許されるんじゃないかなというのがポリシーです。歌で注目を浴びてこの人誰!? って調べたら芸人さんってこともありますからね。
松田ナビ:これからの時代、その考え方ができると強いだろうな。最後に展望を教えてください。
皆人:今はまだ僕らの世代が主役ではないという気持ちがありますが、賞レースでは正さんたちに負けないように戦いたいですし、下の世代にお笑いっていいなと思ってもらえる漫才ができるようになりたい。YouTubeでは学生たちの心に響く表現を見出して、この人たちお笑いもやっているんだと注目を集めたい。そして他県からは沖縄のお笑いが盛り上がっていると一目置かれたい。そのためにも幅を広げていきたいです!
【対談を終えて・・・】
☆皆人さん☆
正さんの話をもっと聞きたいです。昔の正さんのエピソードなど聞くと、せんえつながらどこか自分に近いところがあるんじゃないかと思えるんです。賞レースでも結果を出している正さん。ネタについても教えてください!
☆松田ナビ☆
若い世代の筆頭でありながら、オールドスタイルのパフォーマンスもできるのが皆人。おじさんから影響を受け、ラジオでは若い人から刺激を受け、沖縄で今最もバランスのいい芸人さんだと個人的に思っています。
【プロフィール】
★山城 皆人(やましろ みなと)/ サイレントインファイト
生年月日:1996年10月30日
出身地:那覇市
趣味・特技:音楽、オリジナルのプロレス技を考える、ガンダムとゲーム
Twitter:@to_mina_fec
★松田 正(まつだ しょう)/ 初恋クロマニヨン
生年月日:1984年8月22日
出身地:読谷村
趣味:ソフトボール/漫画
特技:野球
Twitter:@hatsukoimatsuda
【インフォメーション】
◆沖縄お笑い「ちゃんねるFEC」
演芸集団FECの公式チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCvaGgsMOhId-Jmb5cGCWCYg
◆平成一揆
2016年8月結成、メンバー全員平成生まれの沖縄芸人。若手にしか出せないパワーを全身で感じてください。
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCKHQRBAgjc7u8pqKVWp-Fww
Twitter:@heisei_ikki
◆#吉本自宅劇場
https://yoshimoto-live.com/
全国のみなさん、新しい劇場ができました。「吉本自宅劇場」の幕開けです。
芸人も自宅。みなさんも自宅。
動画で、音声で、記事で、距離を超えて笑いを届けます。
いつか直接会えるその日まで、合言葉は「手洗い、うがい、笑い」。
お近くのスマホ、PCからどうぞ。ご来場、心よりお待ちしております。
◆YouTube「よしもと沖縄チャンネル」
よしもと沖縄芸人出演のオリジナル動画やランキングライブの映像など、さまざまな内容をお届け中。
YouTubeにて「よしもと沖縄チャンネル」を検索し、チャンネル登録をしてご覧ください。
YouTube「よしもと沖縄チャンネル」
※更新情報は「よしもと沖縄花月」のTwitter(https://twitter.com/okinawa_kagetsu)でチェック!
饒波貴子(のは・たかこ)
那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。