工芸と現代アートの枠を越えた唯一無二のものを作るー本村ひろみの時代のアイコン(33) 今村能章(陶芸作家)


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インスタグラムで彼の作品を初めて見た時、ゾクッとした。そして目がくぎ付けになった。耳、人の手、顔顔顔、髑髏(どくろ)、球体から溶け出した手脚(のようなもの)。
「Once upon a time(ワンス アポンナ タイム)・・・」
“この器を手にしたら異界への扉が開かれるのかもしれない・・・”と、そんな妄想が勝手に頭の中で渦巻いていく。器が時空をゆがめ、別の場所に連れて行かれるようなそんな印象。陶芸作家・今村能章さんの作品は、置かれた空間で物語を紡ぎ出しているのだ。

インパクトのある作品でコレクターも多い今村さん。実際に彼の作品に触れる日を楽しみにしていた。那覇市のデパートリウボウで7月後半から8月初旬まで開催されていた「陶三人展」(リウボウ美術サロン)に出展していると聞き、取材もお願いして会場に向かった。

長身の今村さんは黒の上下に革のサンダル、カーキ色の頭巾のようなかぶり物に同色のマスクといういでたちで迎えてくれた。スタイリッシュな色調。個性の強い作品を作る工芸家は、職人気質であまり多くは語ってくれないのでは?という私の偏見を覆すように、親しみやすい屈託のない笑顔で作品について細やかに説明してくれた。

工芸の枠を越えた新感覚の作品

展示会場の今村さんのスペースには、工芸の枠にとどまらない斬新で現代アートのような趣の作品が並んでいた。その中でもひときわ目を引くのが脚の部分がまるで茎のようになったグラスだ。「オブジェを器として使えるものにしたかったんです」と今村さんは語った。

釉脚盃

“釉脚盃(ゆうきゃくはい)”と名付けられたグラスは脚の部分が釉薬(ガラスの調合物)単体でできている。一見オブジェのようなグラスだが、手に持つと見た目の繊細さとは裏腹に日常のシーンで役立つようなしっかりとした感触がある。

千鳥柄のグラスはファッションからインスピレーションを受け、グラスの表面に文様のパターンが繰り返すよう円周率で計算して完成させた。

釉脚盃・千鳥柄

グラスの手の部分がドアノブのような球体になっている作品は、きっとテーブルに置いているだけで、会話のきっかけになるに違いない。

“釉脚盃(ゆうきゃくはい)”を手にしながら「脚の部分は重力の形なんです。自分の手から離れたところでこの流線が形成されていて、もしかしたらまだ動いているのかもしれません」と楽しげに話す今村さんの言葉は魅力的だった。
材質である鉱物を扱う視点から地球と対話し、『Genesis(創世記)』という作品では世界の成り立ちを喚起させ、器を焼いて溶かして流すその時間の在り方についても「静止しているようで、時間は永遠から見れば人間の気付かない速度で流れているのかも」と、思索を巡らせる。

Genesis(創世記)

例えば、作品『水をすくう手』は人間が最初に口にした水をすくう瞬間に思いをはせ、髑髏の器は輪廻転生を示唆している。構築的な手触り、ロマンのある話を聞いているうちに今村さんの生い立ちに興味が湧いてきた。

水をすくう手(左)
髑髏の器

誰も見たことのないものに憧れて

今村さんは子どもの頃から未確認生物にひかれていた。恐竜図鑑を眺めては博物館に行き、ネス湖のネッシーに憧れ、自由研究では「つちのこ」をテーマにした。小学生の頃に実家の近くで「つちのこ」を見たという人が現れ、「つちのこ」が身近な存在になり、夢中になって探したそうだ。「人が見たことがないものを自分が作りたい」という彼の思いの原点は少年時代から培われてきたもの。今でも陶芸で窯を開ける瞬間「作品の最初の目撃者は自分」といつも胸を踊らせているそうだ。

大学を卒業する頃、将来「陶芸」で生きていくための蓄えの準備と社会勉強のために仕事を探している時に出会ったのが、オリジナルの窯でピザを焼いているBACAR(バカール)のオーナー・仲村大輔さん。フラットな価値観や職人としての姿勢、作品のコンセプトをプレゼンする技術など、仲村さんのもとで学んだことは大きい。その影響もあって、「これからは後輩や新しい世代とつながって一緒に未来へと歩んでいきたい」と夢を語ってくれた。ちなみに『人の間』のという器には仲村さんや知り合った人たちの顔を表現したそうだ。出会いが作品にも反映されている。

人の間

いつの日か、職業を問われたら「職業は今村能章です」と答えられるような人間になりたいという今村さん。工芸と現代アートの領域を飛び越えていく彼の進化から目が離せない。近いうち、糸満にあるアトリエ「今村実験室」に行ってみようと思う。そしてその世界観を堪能した後、今村さんの器で珈琲が飲めるというカフェ“Mondoor(モンドア)”にも行ってみたい。夏の楽しみが増えた。

【今村能章プロフィール】

今村能章(いまむらよしあき)

1984年 兵庫県に生まれる
1994年 未確認生物に興味を持つ
2003年 沖縄県立芸術大学の陶芸専攻に入学
2007年 窯の中で溶けて変化する鉱物やガラスに興味を持つ
2013年 アトリエを持ち実験を再開する。以後さまざまな鉱物を調合して焼き溶かし、重力や熱を意識した造形表現をすすめる。並行していろいろな国で収集したガラクタやオブジェから型取りしたパーツを用いた器を制作する。

【Instagram】
 今村能章 https://www.instagram.com/yoshiaki_imamura/?hl=ja
 今村実験室 https://www.instagram.com/imamura_spot/?hl=ja
 MONDOOR https://www.instagram.com/cafe_mondoor/?hl=ja

【筆者プロフィール】

本村ひろみ

那覇市出身。清泉女子大学卒業、沖縄県立芸術大学造形芸術科修了。
ラジオやテレビのレポーターを経てラジオパーソナリティとして活躍。
現在、ラジオ沖縄で「ゴーゴーダウンタウン国際通り発」(月〜金曜日 18:25~18:30)、「 WE LOVE YUMING Ⅱ 」(日曜日 19時~20時)を放送中。