ふるさとの米作り未来へ 名護市嘉陽区の稲作


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水田を学びの場に。
多世代が関わる稲作の新しいかたち

先月初旬、名護市嘉陽の水田地帯では一期作目の稲が収穫の時期を迎えた。自分たちで刈り取った稲の束を手に、写真に納まったのは、名護市立緑風学園の5年生21人と関係者ら。同校では「コミュニティ・スクール」の制度を活用し、地域ぐるみで稲作を学ぶ環境が整えられている。田植えから収穫した米を食べるまで、生徒たちは自身の手で経験する 写真・村山望

名護市の東海岸側に位置する嘉陽区。集落背後には水田地帯が広がり、かつては米どころとして知られていた。住民らには「後のターブックヮー」(後ろの田んぼ)などと呼ばれ今も身近な存在だ。地域の歴史や文化とも密接なつながりのある稲作を残そうと、住民、学校、関係機関が一体となった取り組みが2018年から続いている。稲刈りと脱穀作業の現場に立ち会い、関係者たちに話を聞いた。

先月7日、真夏の日差しの下、名護市立緑風学園の5年生21人と関係者たちが田んぼに集まった。この日は、生徒たちが4年生の3学期(今年3月)に植えたヒトメボレの収穫日。水の引いた田んぼでは、黄金色の穂をつけた稲が頭をたれ、風になびいていた。

今回の収穫方法は昔ながらの手刈り。水田の管理をする嘉陽区の翁長信之さんから鎌の使い方や稲のまとめ方についてレクチャーを受けた後、生徒たちは作業を始めた。同区青年会のメンバーも会場設営や安全面のサポートで全面的に協力した。慣れない鎌での作業に苦戦した生徒もいたが、ザクザクと稲を刈り取る感覚は、楽しいものだったようだ。作業を終えても「もっとやりたい!」と話す生徒がいた。

翁長信之さん。嘉陽区の元区長であり、生徒たちの水田を管理している。稲作が盛んだった復帰前の嘉陽を原風景として持つ人物

一粒の大切さ伝える

稲刈りの後は、脱穀・選別作業も行った。今回は名護博物館の協力で「トーミ(唐箕、とうみ)」や「ミージョーキ(ざる)」といった、動力を用いない道具を使用。日本復帰前後まで、県内で行われた方法を学んだ。古い道具の精度は高くないので、稲の実とその他の選別は完璧ではない。最後は生徒たちが手作業で、一粒一粒を選別した。単調で根気のいる作業だが、この工程を通して食べ物の大切さや、昔の人の暮らしを伝えたい、と関係者らは考えている。

「トーミ(唐箕、とうみ)」を使った作業。稲に混じった茎やゴミを風の力で分別する

「(稲作は)楽しい作業だけを提供する“いいとこ取り”の体験ではありません。でも、苦労するおかげで、生徒たちの印象に残り続けるようです」

取り組みを支援する、NPO法人久志地域観光交流協会の坪松美紗さんはそう話した。

今回収穫した米は、生徒たちが2学期に行う宿泊学習で食する予定だ。稲わらも無駄にせず、嘉陽区の伝統行事である「綱引き」用の縄に加工する。「稲作について、自分たちでまた考えてみて」。一日がかりの学習を終えた生徒たちに、翁長さんは語りかけた。

「足踏み式脱穀機」を使った作業。リズミカルにペダルをこぎながら稲穂を持った手を動かす

続け方を模索

「稲作は子どもたちの学習のためでもあり、地域のためでもあります」

そう話すのは、同法人の常務理事・江利川法孝さん。稲作は、緑風学園が導入する「コミュニティ・スクール(CS)」の一環だと教えてくれた。

NPO法人久志地域観光交流協会の坪松美紗さん、江利川法孝さん夫妻

CSとは文部科学省が推奨する制度。学校運営に保護者や地域住民の声を生かし、特色ある学校づくりを目指すものだ。緑風学園では、子どもたちの学習機会と、人口減少に悩む名護市東海岸地域の課題、両方にアプローチする手段となっている。

今回の作業には、生徒たちの保護者や同区にある美ら島自然学校の職員も積極的に参加した。「地域の良さを、大人たちにも知ってもらうきっかけにしています」。そう話す坪松さん。稲作は、保護者の世代にとっても新鮮に映ることが少なくない。取り組みを続けることで、東海岸地域に移住する人や、地域に継続的に関わる「関係人口」が増えてほしいと展望を明かした。

地域の伝統である稲作は、新しい担い手を得て、そのあり方を模索しながら、未来につながっていく。

手作業や「エービ」という簡単な道具で、一粒一粒を無駄にせず選別する。途中、収穫したばかりの生米を数人の男子生徒が味見する一幕も。「お米の味! おいしい!」と笑顔で伝えてくれた

(津波典泰)


〈稲作に関する問い合わせ〉

NPO法人久志地域観光交流協会

名護市大浦465-7
(わんさか大浦パーク内)
TEL 090-9785-7832

 

(2023年8月3日付 週刊レキオ掲載)