「レコード・ストア・デイ」というムーブメントを知っていますか?
毎年4月の第3土曜日に世界各国で同時開催される音楽を愛する人々のための〝祭典〟のことです。楽曲のインターネット配信や販売が盛んになり、音楽業界でもデジタル化が進む中、その名の通りレコードショップやCDストアに足を運んでアナログレコードやCDを手にしながら、音楽の楽しさを体感し、共有し合うイベントです。2018年は4月21日に当たります。
◇野添侑麻(イベンター、琉球新報Style編集部)
アメリカのCDショップで始まり世界中へ
始まりは2008年、アメリカのとあるCDショップから。当時のアメリカでは、大型ショッピングモールでCDが安売りされ、その影響でCDショップチェーンが軒並み撤退してしまいました。残された街の小さな個人経営のCDショップの店主たちが、この現状をどうにか打開し、盛り上げるために発案したイベントが、「レコード・ストア・デイ」誕生のきっかけとなりました。
その後、このムーブメントはSNSなどを通じて世界中に広がり、2018年には世界23カ国のレコード・CDショップが参加するまでに。近年はCDショップだけでなく、アーティストも一体となってレコード・ストア・デイに参加し、この日限定の作品を販売したり、ショップと協力しインストアイベントを行ったりと、この音楽の祭典を盛り上げています。
この日販売される限定盤は、ネット販売や予約取り置きなどを禁止するという徹底ぶり!これも全てショップに直接足を運んでもらうためなんだそうです。
日本では157店、沖縄でも!
日本運営事務局の公式サイトによると、国内では2011年から取り組みが始まりました。やがて全国に広がり続け、2018年は157店が参加しています。
沖縄県でも、大手CDショップや個人経営のレコード店など4店が参加を表明しており、店舗ごとに特別イベントを開催し、レコード・ストア・デイの盛り上げに一役買っています。
“音楽の島 沖縄”のレコードショップの店長たちは、どのような思いでレコード・ストア・デイへの参加を決めたのか。各ショップの紹介と共に、名物店長たちのレコード・CDに対する愛を思い存分語ってもらいました!
沖縄の先駆け「タワーレコード那覇リウボウ店」
まず最初におじゃましたのは、大手CDショップチェーン「タワーレコード那覇リウボウ店」。店長の古田真さんに、同店の取り組みや、人生を変えたオススメの1枚を紹介していただきました。
―いつからレコード・ストア・デイ(以下RSD)に参加していますか?
古田:タワーレコード那覇リウボウ店は2015年から参加しています。RSD限定作品の取り扱いがメインとなります。
―特別イベントもあると聞きました。
古田:沖縄で活動するDJたちに声をかけてDJイベントを行います。定期的に県内各地でイベントをやっている「踊ロック」「STEPOUT」「アラケモ。」という3チームが盛り上げてくれます。
彼らは普段クラブやライブハウスで活動しているけど、未成年など今まで興味はあったけど、なかなかDJイベントに行けなかった方たちは、この機会にぜひ遊びにきてほしいです!
この日はDJとも直接コミュニケーションできるし、DJをやってみたい人は機材も見ることできるので、レコードやCDで遊ぶきっかけの1つとなればうれしいです。
―この先、どのようにRSDを盛り上げていきたいですか?
古田:DJイベントだけじゃなくて、バンドやラッパーなどのパフォーマンスを披露できる場にもしていきたいです。この日は『音楽が好きな人のための祭典』なので、CD販売に限らず、音楽のあらゆる楽しみ方を提示して、CDショップに足を運ぶきっかけになれるよう育てていきたいです。
RSDを通して、沖縄の音楽好きが当店に集まって交流を深める場になればうれしいです。音楽を楽しむ時間を共有できる1日にしていきたいです。
―最後に古田店長のオススメの1枚を教えてください!
古田:大貫妙子さんの「SUNSHOWER」です。今、音楽シーンの中で「シティポップ」と呼ばれるジャンルのミュージシャンに勢いがあるんです。
シティポップの始まりは80年代ごろ、フォークソングブームが終わり、洋楽のソウルミュージックなどに影響を受けて、都会的なキラキラした音を取り入れたジャンルになります。その中でも代表的な作品がこちらの「SUNSHOWER」になります。
海外でも日本のシティポップが非常に評価されていまして、わざわざ日本にこのアナログレコードを買い求めに来るくらい名盤中の名盤です。
当店でも、当時のシティポップ作品の特設コーナーを作って展開しております。当時と今のシティポップを聞き比べて、懐かしい音楽や新しい音楽との出会いを楽しんでくれたらうれしいです!
◇“レコード・ストア・デイ タワナハ” イベント詳細
http://tower.jp/store/event/2018/04/RSD2018_1136
その名も「CD屋さん」!こだわりのセレクト
続いて向かったのは、中城村にある「CD屋」さん。
名前の通り、CDとレコードを中心に扱っている個人経営のCDショップ。幅広い音楽ジャンルを取り扱っており、作品の多くは店長自らセレクトして直接アーティストから買い付けて仕入れているというこだわりぶり! そんなこだわりの詰まったお店を経営する、店長の伊波さんにお話しを聞きました。
―CD屋さんは、いつからRSDに参加しているんですか?
伊波:2015年から参加しています。参加しようと思ったきっかけは、RSDは毎年限定レコードが出ていて、その年は自分の好きなアーティストも限定盤を出していたんですよ。
その作品が欲しくて、うちの店でも扱いたいと思って参加しました。RSD自体もその年から、日本でも大きく広がっていった印象があります。
―RSDに向けてイベントなど行う予定はありますか?
伊波:お店でレコードのセールを行います。また大阪からマロニエ堂というミュージシャンを呼んでインストアライブや出店もやりますし。
年に1度のCDショップのためのお祭りなので楽しみです。 前日には那覇で前夜祭もやり、マロニエ堂と県内アーティストのライブイベントを開催しました。
―CD屋さんは、アナログレコードを多く販売されていますよね。アナログレコードの魅力を教えてください。
伊波:アナログレコードの魅力は、面倒くさいところですね。持ち運んで聴くこともできないし、レコードの手入れもしないといけないし、聞くためには専用のレコードプレーヤーも必要になる。でも料理と同じで、このひと手間があるからレコードにハマっていくんだと思います。手間が掛かる分、1曲1曲に思いがこもるので、それが魅力ですね。
3年前にRSDを始めてから、アナログの売り上げが年々増えていると感じています。若い人でもレコードに興味を持っている人が増えている。少なからずRSDの影響もあると思います。レコードの扱い方や、質問などがあれば、いつでもお店に遊びにきて聞いていただけたら、アドバイスします。
―それでは伊波店長のオススメの1枚を教えてください!
伊波: レコードからPINK FLOYDの1stアルバム「The Piper At The Gates Of Down」。50年以上前のサイケデリックバンドの名盤です。学生時代から聞いているのですが、今聴いても色あせない魅力を持っている1枚です。
CDでも持っているのですが、好きすぎてアナログ盤で聴くことが多いです。今回のRSD限定で再発売もされるので、当店でも入荷しております。気になった方や、今まで欲しかったけど持っていなかった方はぜひお買い求めください。
独特の世界観を発信する「波の上ミュージック」
続いて紹介するCDショップは、那覇市にある「波の上ミュージック」。ヒップホップやレゲエ、ダンスミュージックを中心に、県内外問わず独特の世界観を発信するアーティストの作品を取り扱っています。自身もDJとして活動するDJ 4号棟店長に、波の上ミュージックが取り組むRSDの活動を紹介してもらいました。
―波の上ミュージックさんは、いつ頃からRSDに参加されているんですか?
4号棟:去年から参加しています。RSD自体の活動はもともと知っていたんですが、年々ムーブメントが大きくなっていて、限定で売られている音源でほしい作品がたくさんあったので参加を決めました。
今年、限定品はそこまで入荷せずに、僕らで集めた中古のレコードを中心に展開していく予定です。
―RSD特別イベントなどを開催する予定はありますか?
4号棟:昼と夜でそれぞれイベントを準備しています。昼の部は、クラブでDJしている子たちを波の上ミュージックに集めて、お客さんが良い雰囲気で買い物ができるように店内のBGM担当として、それぞれ回してもらいます。
夜は、熱血社交場というクラブで「BIGBEAT」というイベントを開催します。ヒップホップはレコードやCDから曲を引用して、一定部分のリズムを抜き出しながら新しく音楽を組み立てていくサンプリングという手法で作られています。そのサンプリングの腕を競うビートバトルというイベントを行います。
これもレコードの遊び方の1種なので、「こういうレコードとの接し方もあるんだよ」っていう提示ができて、レコードに興味を持つきっかけになってくれたらうれしいです。
―ヒップホップに精通している人ならではのレコードの楽しみ方ですね! 今後はRSDをどのように盛り上げていきたいとか、考えていることはありますか?
4号棟:来年は僕ら主導で、アナログレコードを作って販売したいと考えています。今は東京のバイヤーを通して卸しているんですが、沖縄で活動するカッコいいラッパーを集めて1つの作品を作って、逆に自分たちで仕掛けていくつもりです。
せっかく世界的に盛り上がっているので、独自のラインで切り開いて面白く展開していけたらいいなと思う。
―沖縄のヒップホップシーンも、盛り上がっていますもんね。今から来年のRSDも楽しみです! それでは4号棟店長のオススメの1枚を教えてください!
4号棟:Nujabesという日本のビートメーカの作品「Luv(Sic)」です。初めてサンプリングミュージックに出会った1枚です。
当時18歳だったんですが、売っているお店を血眼になって探しました。メロディも綺麗だし、ラップで参加しているShing02も日本人なのに英語でめちゃくちゃカッコいいラップをしていて、とにかく衝撃的だった1枚です。ラップにはまりだしたきっかけの1枚ですね。
―最後にアナログレコードの魅力を教えてください。
4号棟:魅力は、自分でコレクションしていく感覚ですかね。今はスマホですぐ音楽を聴けちゃうけど、自分たちの世代はCDかレコードを買わないと聴けなかった。また一目見て買うのを決める「ジャケット買い」など一期一会的な出会いも込みで音楽との出会いを楽しんでいたので、そこも魅力の1つですかね。
例えば、旅行にいった先々でレコード屋に足を運んだりもしていました。その土地でレコードを買うと思い出になるんですよ。旅した記憶というか、写真みたいな感覚ですよね。それがレコード屋に足を運ぶ魅力でもあるかと思います。
そういった行為がRSDの目的の1つでもあると思うし、昔に比べてレコードプレイヤーも安く売ってるので、ぜひアナログレコードでも聴いてほしいですね。
◇波の上ミュージック Presents “BIG BEAT vol.8”
日時 2018年4月21日(土)
会場 熱血社交場
開場 22時
チケット代 1,500円
〈インタビュー後記〉
各店舗ともそれぞれ異なった形でCDやレコードとの出会いを提示し、音楽との出会いをつなげる場になろうと、楽しみながらRSDに参加している姿がとても印象的だった。
音楽のダウンロード販売や、ストリーミングサービスなどスマートフォン1つで何万曲の音楽を聴ける消費者にとっては便利で良い時代になったものの、店長自ら1つ1つ選び抜いた音楽との出会いを楽しむのも、良いものである。
想いを込めて書かれた手書きの紹介文を読み込んだり、店長のうんちく話を聞いたりしながら、どれを買おうか棚に並ぶ作品を選んでいる時間こそ、ものすごいスピードで駆け抜けていく今の時代の中では、とても贅沢な時間なのかもしれない。
作品との出会い、人との出会い、地域のコミュニティの場としてのCDショップの価値を改めて提示してくれたRSDは、「つなぐ場」として今の時代の中でより重要な立ち位置を示してくれていると実感した。
取材執筆・野添侑麻(のぞえ・ゆうま)
音楽と湯の町別府と川崎フロンターレを愛する92年生。18歳からロックフェス企画制作を始め、今は沖縄にて音楽と関わる日々。大好きなカルチャーを作っている人たちを発信できるきっかけになれるよう日々模索中。沖縄市比屋根出身。