今帰仁村の魅力は何か。観光客に人気の古宇利島や、世界遺産の今帰仁城跡。4月に北部支社に赴任したばかりのつかざき記者が思い付いたのは、そのくらいだった。
「型通りでない今帰仁村の魅力に触れてみたい」。そう思い、5月下旬の昼下がり、先輩のさの記者とゆうりゅうカメラマンと一緒に、村役場がある仲宗根周辺をほろほろ(ぶらぶら)してみることにした。
泡盛 こうして造られる!
豊かな自然、昔ながらの風景が残る今帰仁村。その中でも、村役場などの公共施設や店舗、コンドミニアムなどの観光施設が点在する仲宗根が村の中心地だ。車を降りて、ちょっと足を延ばせば、いろいろな場所を訪ねることができる。運動不足な記者たちも、今帰仁の魅力を探そうと歩き回った。
まず訪れたのは今帰仁酒造 1 だ。原酒を貯蔵する大きなタンクが目を引く。平日の午後に受け付けている工場見学(要事前予約)を申し込み、中に入ってみた。
見学に訪れた日は、発酵の過程を見ることができた。アルコールの香る工場内で、10トンのステンレスタンクいっぱいに入ったもろみが発酵し、ぐつぐつと泡立っている様子が見えた。仕込みから蒸留に至る原酒の製造工程は、おおむね1週間程度。見学する日によって見られる工程は異なるが、今帰仁酒造では全過程を見ることができるという。説明してくれた社員の大島正好さん(40)は「製造過程の全てを見られる酒造所は県内でも少ないのではないか」と話す。
工場に併設される販売コーナーは創業70周年を記念して、今年リニューアルした。コーナーには同酒造の銘柄がずらりと並ぶ。創業当初から造っている銘柄「まるだい」を購入して、次へと向かった。
自家製麺 “口福”なひととき
そういえば、お昼を食べていなかった。腹ごしらえをしようと食堂を探していた記者たちは、鼻をくすぐるうような香りに誘われて「まんてん」 2 へ。創業27年、沖縄そばの名店だ。
「ヨモギを練り込んだ麺を味わって」。母の味を受け継いだ二代目の山城大輔さん(39)のお薦めに従い、さの記者は「ヨモギそば(大700円)」をずずずっと。
もちもちの麺はほのかに甘く、ふわりとヨモギの香りが鼻に抜ける。熱々の汁をすすり、三枚肉を頬張ると、ほろほろと口の中でほどける。まさに“口福”なひとときだ。
まんてんの麺はヨモギ麺も含めて全て自家製。毎日、大城さんが手打ちで作る。「麺がなくなると営業も終わり」。営業開始30分で完売したこともある。この日も、50食があっと言う間に売り切れた。
旬の物 入手するならここ!
少し歩いて、次に訪れたのは「今帰仁の駅そーれ」 3 。地元の農家約600人が納める新鮮な野菜や果物、菓子などが所狭しと並ぶ。
神奈川から家族3人で訪れた落合芳之さん(34)は、サーターアンダギーをぱくぱくと試食。奥さんの智美さん(32)にお伺いを立てた上で購入した。「甘くておいしい」と子どものように笑う。「地元感がたっぷりで、おもしろい」と店の様子を楽しんでいた。
店には新鮮な野菜を求めて、村民も訪れる。野菜の知識が豊富な店員に料理法や鮮度を尋ねたりしながら、旬の野菜を買い求めている。
今帰仁の名物、スイカについて聞いてみると、代表取締役の鈴木江美子さん(60)は「5~6月のスイカは夏前で日焼けしておらず、身が締まっている」とのこと。良いスイカが買えると評判で、村外から予約もあるという。記者たちも一つ選び、買って帰った。
カフェ 2年かけ工場跡改装
少し歩き疲れたので、カフェに入って休憩でも、と思っていると、外装に木材を用いた、いい雰囲気のカフェを見つけた。4月にオープンしたばかりの「波羅蜜(ぱらみつ)」 4 だ。
入ってみると、打ちっ放しの高い天井が、落ち着いた雰囲気を演出していた。店主の西郡(にしごおり)潤士さん(43)=神奈川県出身=らが工場だった場所を約2年かけて改装し、オープンにこぎ着けた。「やんばるには何でも自分でやるという雰囲気がある」と西郡さんは語る。
店ではコーヒーやランチが楽しめる。記者たちはコーヒーフロートを注文。自家焙煎(ばいせん)の冷たいコーヒーは疲れた体に染みて、一息つくことができた。
店はオープンしたばかりだが、既に本島北部の若者に人気のスポットだ。ゆっくり本を読んだり、店員との会話を楽しんだりする人もいる。西郡さんは「勉強会や上映会などもでき、人々が集える場所にしたい」と展望を語る。
アグー 10人中9人が注文
もう夕刻。一杯飲んで帰ろうかと考えていると、「今帰仁アグーとり好」 5 の看板が目についた。
「豚なのに『とり』ってどういうことだ」と疑問を抱きながらのれんをくぐると、店主の河本清さん(79)が串焼きを焼いていた。
札幌出身の河本さんがとり好を開いたのは1989年。「沖縄の人たちにも焼き鳥を楽しんでほしい」と国産鶏にこだわって、鶏ガラとしょうゆベースの自家製のたれで串焼きを提供してきた。
「自分の都合で店を休んだことはない」と言い切る河本さん。30年間厨房(ちゅうぼう)に立ち続けている。05年ごろからは地元産のアグーの塩焼きも提供し、柔らかな肉質が観光客を中心にヒットした。河本さんは「(お客さんの)10人のうち9人は注文しているぐらいだ」と語る。「看板メニュー」のようだ。
カウンターの奥の棚には、すぐそばの今帰仁酒造の泡盛も並ぶ。飲むにはちょっと早い時間だったが、記者3人は肉厚のアグーや、自家製たれとマッチした焼き鳥を味わった。
とり好が位置するのは、仲宗根の中でも飲み屋が立地するエリアだ。とり好のちょうちんに明かりがともる頃、仲宗根周辺に集まる数件のスナックや居酒屋にネオンや明かりがともっていた。仕事を終えて、店に集う地元の人たちの談笑を聞きながら、3人は帰路に就いた。
(2018年6月3日 琉球新報掲載)