沖縄のロック好きを踊らせ続ける「踊ROCK」松島亮哉さんに聞くDJの楽しみ方


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「DJは楽器が弾けなくてもできる音楽活動の1つの形なんです。例え初心者でも自分の信じる音楽を多くの人に届けて、踊らせて、楽しませることができるエンターテインメントです」と語るのは、沖縄で活動を続けるロックDJの松島亮哉(まつしまとおや)さん。

DJは近年、さまざまなジャンルやタイプで細分化されている。ロックDJはライブハウスやフェスなどを舞台に国内外のロックバンドの曲を中心に選曲し、フロアに一体感をもたらす役割を担っている。今でこそ全国各地で盛り上がりを見せるロックDJシーンだが、彼は沖縄ではほとんど成功例がなかった2010年からロックDJパーティーを開催し続けてきた。彼はどのようにしてロックDJシーンをこの島で確立させていったのか。音楽にかける深い想いを話してくれた。

◇聞き手・野添侑麻(イベンター)

とあるフェスでの運命的な出会い…

―さっそくではありますが、松島さんのプロフィールを教えてください。

沖縄県内を中心にDJ活動をしている松島亮哉と申します。宜野湾市出身で、年齢は37歳になります。DJは亮哉(とおや)という名前で活動しています。

DJを始める前から音楽活動はしていまして、高校の頃からバンドでドラムを叩いていました。高校卒業後は大阪に5年住んでいたんですが、その時もバンドは続けていました。

―10代の頃から音楽は好きだったんですね!音楽を好きになるきっかけを教えてください。

兄弟の影響で、小5くらいからMr.Children※1やLINDBERG※2などJ-POPを中心に音楽を聴くようになっていました。中学生になってからはパンクロックを聴くようになって、その影響でドラムに興味を持って、そのままバンドをはじめました。高校の頃はHi-STANDARD※3に出会ってインディーズロックも聴くようになりました。

―バンドマンとして活動を続ける中、なぜDJとしての活動もはじめようと思ったんですか?

2009年にROCK IN JAPAN FESTIVAL※4というロックフェスに行ったときに、休憩のため立ち寄ったロックDJブースがめちゃくちゃ面白かったのがきっかけです。初めて体験するロックDJにたちまち魅了されて、「俺もこの大きなステージに立ちたい!」って思い、DJ活動を始めました。

―ロックDJの何がそこまで衝撃的だったんでしょうか?

DJはあらゆる音楽の良いとこ取りな面があって、いろんなアーティストの曲が聴けて盛り上がれるところに衝撃を受けました。解散したバンドや、それこそフェスに出演していないアーティストの曲も聴けるし、そこに対して全員で盛り上がれてお客さんが純粋に音楽を楽しんでいるっていう空間に衝撃を受けました。

当時バンド活動もしていたんですが、具体的に目標を持って動いているわけではありませんでした。でもDJに関しては「このステージに立ちたい!」っていう思いが湧き出てきて、その目標を絶対に叶えたいと思って挑戦しようと思ったんです。

経験ゼロでDJイベントを主催!

―自分を突き動かしてしまうほどの大きな衝撃を受けたんですね! その後すぐ沖縄でDJイベントを開始したんですか?

やりたくても、そもそも初心者だし、DJ界隈に繋がりもなくて…(笑)。全てにおいて経験も知識もゼロでどうしていいかわからなかったのですが、当時流行っていたSNSのmixiを使って沖縄でロックDJをしている人を探して協力してもらおうと思ったんです。

そこで「エントランス」っていう邦楽ロックのDJイベントを沖縄でやっている女の子グループがあって、彼女たちに連絡を取って協力してもらいました。彼女たちからイベント運営やDJについていろいろ教えてもらいながら、何とか1回目の主催イベント「踊ROCK」を始めることができました。

DJを行う亮哉さん。

―DJとして経験を積むより先に主催イベントを打ったことってすごい勇気のいることだったと思います。

いろんな人の協力があってお陰さまで形にできたって感じです(笑)。今考えると恐ろしいんですが、当時を思い返すと失敗をも恐れない熱量があってどんどん突き進んでいけたんだと思います。目標はあくまでもその先の「フェスのDJステージに立つ」っていうものでしたからね(笑)。

子どもの頃から「自分がやりたいと思ったことはまず挑戦する」っていう性格だったのも良かったと思います。

持ち前のチャレンジ精神で著名DJを次々に沖縄へ

―そんな主催イベント「踊ROCK」も今年で8周年。イベントの魅力を教えてください。

「踊ROCK」は、タイトルの通り踊れるロックを中心に選曲しているイベントです。だからあまり音楽を知らない人でも、自然と体が動いて踊れて楽しめるイベントだと自負しています。あと県外から著名なDJの方をゲストに呼ぶことも多いので、有名なDJを沖縄で見られるのが魅力って言ってくれる方も多いです。

―過去に出演したDJの方々、ものすごい人たちばっかりですもんね。ゲストのオファーは亮哉さん自ら行うんですか?

基本的には僕が行っています。でもそんな著名な人達との付き合いは、僕の無謀なオファー方法がきっかけだったんですよ…(笑)。

「ロックフェスのDJステージに立つ」という目標を立ててDJ活動を始めてみたものの、地方で活動しているDJがどうしたら出演できるかなんて、当然ながら分からないわけです。そこで実際に出演している人達とつながったら、何かヒントがもらえるんじゃないかと思って、フェスに行って彼らに無理やり声をかけて自分の名刺とMIX CDを渡しにいったんです。楽屋近くで「沖縄でDJイベントやってるものです! ぜひ来てください!」って押し掛けたり(笑)。

でも、そんな無礼な態度でお願いしにいったのに、皆さんしっかり返事を返してくれるんですよ。それでそのまま出演が決まるっていう流れですね。

理想と現実の間で折れた心。そして仲間の助け。

―名実共に沖縄を代表するDJイベントに成長した「踊ROCK」。今まで続けてきて、苦労したことはありますか?

苦労したことばっかりです(笑)。ずっと1人でイベントを運営してきたのですが、思った以上に大変で…。それで限界に達して一度DJをやめようと思ったことがあるんです。

1人だと、成功したときの実感や嬉しさなどの喜びも大きいんですが、失敗したときのダメージが思った以上に大きくて、イベントとして良いものを作れなかったときの落ち込みようが半端じゃなくて…。1人でやっているから誰かと分け合える痛みでもないし(笑)。「もうしんどいな、やめようかな」って思った時期がちょうどイベントを始めて5年目くらいの時。

DJを始めたころは、ただただ「楽しい」っていうのがモチベーションだったんです。もちろんチケット代を頂く以上、しっかりとしたイベントにしてお客さんに楽しんでもらうっていうのは大事なのですが、「DJが音楽を楽しみながらプレイしている姿 を見てもらったほうが、より良いイベントになるんじゃないか」と思い、そんな根拠のない自信でイベントを続けていたんですが…。

でも、いろんな人のDJを見させてもらったり、他のイベントに足を運ぶようになると、自分のレベルや意識がどれだけ低かったかと身の程を知るようになったんです。自分と他人を比べてしまって「俺はあれもこれも出来ていない」と悪いとこばかりが目について、そんな悩みも誰にも相談できず1人で抱え込んじゃってDJ活動を楽しめなくなっていったんです。

「もう無理だ。やめよう」と限界を感じて友達に相談したところ、「沖縄でこれだけの規模のDJイベントを作り上げてきたんだから、今さらやめてもらっては困る」と逆に怒られたんです(笑)。

「イベントを運営する仲間を増やそうよ」とアドバイスをもらって、よく出演してもらっていた若手DJ2人を運営メンバーに招いて、2015年から3人でやっていくことになりました。そこから彼ら2人に助けてもらって、自信もやる気も取り戻すことができました。

アーティストの持つ魅力を届けることがDJの役割

―酸いも甘いもDJ活動を通して経験してきた亮哉さん。そんな亮哉さんが思うロックDJの面白さと、難しさを教えてください。

ロックしか流さないロックDJっていう活動自体が面白い(笑)。僕のイベントも「踊ROCK」という名前の通りお客さんもロック好きが多いので、そこから新しい音楽好きの仲間が増えるのも嬉しいですね。またロックDJイベントの面白さは、クラブで行われるDJイベントとは雰囲気が違ってライブやロックフェスのノリのお客さんが多いことです。ライブの延長みたいな空気感を楽しめるのも素晴らしいなと思います。

難しさは、ロックってテンポが一定じゃないので、曲のつなぎが難しいですね…。また流す曲の歌詞の内容まで掘り下げて、アーティストの想いがお客さんにも伝わるように曲順を考える作業も身を削りながら行う作業になります。

ノリの良い曲を聴いて楽しく踊るだけじゃなくて、歌詞まで含めてアーティストの持つ魅力をお客さんにしっかりと伝えることができるかどうかというのも難しいポイントですね。いろんな曲を紹介できるのがDJの醍醐味だと思うので、いつも頭を悩ませながら選曲しています。

―亮哉さんがいつも選曲するときに心掛けていることはありますか?

特に変わったこだわりはないですが、自分の好きな曲を中心に組み立てを考えています。あとは出演する時間帯や他の出演者さんの空気感に合わせてジャンルを変えたりします。あとは会場の客層や空気感を見て微調整していく感じですね。

「流すと絶対に盛り上がる曲」って必ずあって、ここ最近よくかけているのはヤバイTシャツ屋さん※5っていうバンドの曲。盛り上がる曲は年によって変わっていくので、自分も常にアンテナを張ってトレンドを追うようにしています。逆にELLEGARDEN※6やHi-STANDARDなど、いつ流しても絶対に盛り上がる名曲っていうのもあります。そのバランスを考えながら選曲しています。

ロックDJ注目の沖縄バンド。そして県内のDJシーンについて。

―亮哉さんがよく流す沖縄のアーティストの曲ってありますか?オススメの沖縄バンドが入れば、教えてください

まずオススメバンドを3組紹介させてください。1組目はCaino。同い年というのもあって、昔からの古い付き合いだし、人柄やバンドマンとしての技術的な面も含めて大好きなバンドです。最近、元SMAPの中居くんの全国ネットの番組でも紹介されました。

2組目はヤングオオハラ。ライブはまだ見たことないんですが、音源を聞いてすごく気になっています。

3組目はザ・ラブレターズ。THE SUNDAYSという名前で活動していたんですが、バンド名を変えてザ・ラブレターズとして活動しています。昔から大好きですね。泡盛のCM曲に使われたりもしていました。もっと売れてもいいのにと個人的には思っています。

沖縄のバンドの曲はイベントでよく流しています。また県外でDJをやるときは、1組ずつ紹介しながら流しています。DJをやっているからには内地に行ったときには地元のバンドを広げる活動も担っていると思っているので大事にしていることの1つです。

―沖縄のDJイベントが直面している問題や、シーンの現状に対して思うことはありますか?

僕の仲間も様々なジャンルのDJイベントに挑戦していろんな企画を立ち上げているんですが、どのイベントもお客さんが同じ顔になっちゃっているっていう危機感があります。新しいお客さんを取り込んで開拓していかなきゃいけないという段階にきていると思います。そこが一番難しい問題ではあるんですけどね…。でも、踊ROCKをやり始めた当初に比べたら、沖縄のロックDJシーンは間違いなく成長していると思います。

地方から熱量を発信

―話は変わって6月23日に開催される踊ROCKは、福岡を代表するDJイベント「Rock A Tone Fukuoka-ロットンフクオカ-」との共催イベントとなります。県外のDJイベントと共催するに至った経緯を教えてください。

2年前に片平実※7さんという著名なDJの20周年イベントが東京であったんです。そのイベントの企画で、全国各地で活動するDJが一堂にゲスト出演するコーナーがあって、その際に全国のDJとたくさん知り合ったんです。

どの方も全国各地を盛り上げて、それぞれの街でシーンを作っている人たちばかりだったので、僕も地方から熱量を発信していく意味でもいつか沖縄で彼らとコラボイベントをしたいと思っていました。そこから時間はかかってしまいましたが、今回「ロットンフクオカ」とスケジュールが合って共催で企画することになったんです。

―ロットンフクオカといえば、九州のロック好きで知らない人はいないというくらい人気のDJイベントですよね!コラボイベントの見どころを教えてください。

九州を代表する大きなイベントですし、彼らも初めて沖縄でやるってことでかなり楽しみにしてくれているみたいです。彼らの影響力のおかげか、九州のお客さんからもたくさんの予約が入っているんです!

そんな福岡の音楽シーンの熱量を沖縄で体感できるのも見どころの1つかなと。また彼らの熱量に負けないように、僕らも沖縄を代表してぶつかっていきたいと思っています。沖縄のお客さんはシャイな人が多くて、イベント序盤の方は大人しく見ている人たちが多いんですが、県外のお客さんはみんな思い思いに最初から最後までずっとはしゃいで楽しんでいるんですよ。福岡から来るお客さんと沖縄のお客さんがフロアでどんな化学反応を見せるのかも楽しみです(笑)。

新しい音楽と出会う場に

――最後に亮哉さんがDJ活動を通して伝えたいことを教えてください。

僕は昔から音楽以外に取り柄がなかったんです。運動もロクにできなかったし(笑)。でも音楽だけはずっと好きで楽しくて、嫌なことがあっても音楽を聴いたら楽になって…音楽に救われてきました。

そんな経験をしてきた自分にとってDJって、お客さんも僕が思う良い音楽に出会ってほしいなと思って活動している部分が大きいです。なので、「踊ROCK」に来たお客さんが、新しい音楽と出会って、そのアーティストを好きになってくれたらこれほど嬉しいことはないです。そこからDJに挑戦してくれたらもっと嬉しいです! DJをやってみたいっていう人はイベントに来て僕に話しかけてくれたら、いつでも相談に乗りますので(笑)。行動したら分からなったことも見えてくるので、動いてみるのが一番ですよ!


※1 Mr.Children1989年結成。90年代、00年代、10年代とシングル・アルバムでヒットを飛ばす日本を代表するロックバンド。

※2 LINDBERG1989年デビュー。2ndシングル「今すぐKiss me」で一躍注目を集める。2002年解散。2014年より活動を再開。

※3 Hi-STANDARD1991年結成。アルバム「MAKING THE ROAD」が国内外を合わせて100万枚以上の売り上げを記録。ノータイアップ、最小限のメディア露出でのミリオンヒットは当時としては異例。2000年に活動休止したが2011年より活動再開。

※4 ROCK IN JAPAN FESTIVAL毎年8月に茨城県ひたちなか市で開催される野外ロックフェスティバル。日本で活動するロック、ポップス、ヒップホップなどのアーティストが総勢200組以上参加する日本最大級のロックフェスティバル。

※5 ヤバイTシャツ屋さん日本のスリーピースロックバンド。2012年結成。2015年に関西最大級の音楽コンテスト「eo Music Try」でグランプリを獲得。翌年メジャーデビュー。

※6 ELLEGARDEN1998年結成。インディーズながら次々とヒット作を生み出し、5thアルバム「ELEVEN FIRE CRACKER」では発売初週で21万枚を売り上げオリコン首位を獲得。幕張メッセで行われたワンマイライブでは3万人を動員した。2008年に活動休止。2018年活動を再開させる。

※7 片平実1996年から続くロックDJイベント”Getting Better”を主催するかたわら、ROCK IN JAPAN FESTIVALやCOUNT DOWN JAPANなどでもDJとして活躍。

― LIVE Info ―

『踊ROCK × Rock A Tone FUKUOKA』
日にち:2018年6月23日(土)
場所:熱血社交場
開場/開演:20時
チケット:1,500円(1ドリンク込)

出演

=Rock A Tone FUKUOKA=

ともぞう
(W)ata
Shimamen.y
iku
ゆこりん。
肥後のび太
よしだ

=踊ROCK=

亮哉
もんつう

聞き手・野添侑麻(のぞえ・ゆうま)

音楽と湯の町別府と川崎フロンターレを愛する92年生。18歳からロックフェス企画制作を始め、今は沖縄にて音楽と関わる日々。大好きなカルチャーを作っている人たちを発信できるきっかけになれるよう日々模索中。沖縄市比屋根出身。