芸人が芸人をインタビューというスタイルが好評のこの連載。ナビゲーターは「初恋クロマニヨン」松田正(まつだ しょう)さん。今回は事務所の先輩である空馬良樹(くうば よしき)さんを訪ねました。
空馬良樹さん(右)と、ナビ芸人の松田正さん。どちらも「よしもとエンタテインメント沖縄 」所属です。
こんにちは、松田正です。今回はよしもと沖縄所属で、読谷村出身の空馬良樹さんに会います。後輩の僕らを始め、みんなに優しい空馬さんの心の奥に迫ります。以前はFEC所属で同世代のハンサムさん、オリジンのベンビーさんと「お笑い県営団地」というライブを開催していたそうですよ。空馬さんの歴史、振り返っていただきます!
東京でお笑い学び、舞台劇で活躍!
松田ナビ:空馬さんは、お笑いを始めてどのくらいになりますか?
空馬: 1998年に沖縄のFECに入団して1年半在籍。その後よしもとの養成所・東京NSCを5期生として卒業し2000年から正式に活動を始めたので、よしもと芸人歴は18年です。キャリアは長いけど、不思議な存在みたいで他の芸人さんたちと距離を感じるな〜(笑)。
松田ナビ:放送作家のキャンヒロユキさんと、FEC時代にコンビを組んだ期間があったそうですね。NSCではエイサーを踊ったと、聞いた記憶がありますが…!?
空馬: キャンさんが、先にNSCに入学していたんです。彼から授業内容を聞いて勉強したいと思い、特別に途中入学させてもらいました。上京する時に気合いを入れて、エイサーの衣装で飛行機に搭乗。NSCの面接もエイサー衣装で行ったら「なんだ、あの民族衣装のヤツは」って浮きまくったさ(笑)。
松田ナビ:エイサー姿で上京して中途採用! かっこいいな〜。
空馬:絶対思ってないよな(笑)。キャンさんは、NSCでも成績優秀で元相方の俺も歓迎されました。でも彼は芸人ではなく作家の道に進んでおり、同期約400人の中から相方を探せなくて結局ピン芸人に。東京では「沖縄の芸人の方が面白い」って思いましたよ。全然負けてない!
松田ナビ:相方選びはフィーリングもありますからね。上京後は、どういう活動をしていたんですか?
空馬:テレビ局のディレクターさんにネタ見せするなど、勉強の日々。NSCを半年で卒業後、2000年に三重県のテーマパーク内で行われる「吉本大笑い劇場」のオーディションに応募。東京から100名受けて合格は俺1人。
松田ナビ:すごいですね〜! 新人で1人だけ受かって役を得るなんて。
空馬:寮生活で、夜3時に寝て朝6時に起きる日々が8か月続いた。「吉本大笑い劇場」は好評で日光江戸村でもやることになり、栃木にも半年間行きました。それから沖縄に帰って内地にいたのは20か月。いい経験になり楽しかった!
よしもとの看板を背負い、沖縄で一人活躍!
松田ナビ:どういう心境の変化で沖縄に帰ってきましたか?
空馬:中途採用なのに入る前から「沖縄に帰るので」と条件を出していたんです(笑)。よしもと芸人という看板が欲しかっただけだから、そこは最初から伝えていました。
松田ナビ:まるでメジャーリーガーのような出来高制(笑)。沖縄に帰ってきて取り組んだことは?
空馬:全ての広告代理店に電話してアポ取り。プロフィール持参で訪問したら、「恋のうた」というドラマ出演が決まりました。
松田ナビ:当時、高校生だった僕も見ていました。空馬さんにとっては「沖縄でやっていくぞ!」っていう勝負の時期だったんですね。
空馬:そう。オーディションに受かって準主役。当時は「俺、俳優か〜」って勘違いしそうになったよ(笑)。帰ってきてもすぐに仕事をもらえて、運が良かったと思います。
松田ナビ:今でこそ沖縄によしもと事務所ができましたが、それまでは空馬さん1人でしたもんね。
空馬:沖縄によしもと事務所ができたのが2010年。2001年に帰ってきたので、9年くらい1人だったね。
松田ナビ:よしもと芸人という看板はあっても、実質はフリーみたいなものですし、大変だったでしょうね。
空馬:いぶかしげに思われただろうけど、ドラマ出演後も仕事をいただけて、少しずつ業界で知られるようになりました。確かに大変でめっちゃ寂しかった(笑)。
松田ナビ:僕が初めて空馬さんに会ったのは、高校生の時。FEC主催のトーナメントでした。同じ読谷村出身ってことで話しかけてくれて、すごく陽気な人という印象でした。
空馬:全然覚えてない(笑)。その頃はハンサムの2人がとっても優しくて、単独ライブに毎回出させてもらいました。言いたいこと言ってぶつかった時もあるけど、ボケ合ったり胸の内を明かせる仲間という感覚。俺、よしもと内ではふざけたりしないさーねー(笑)。
松田ナビ:世代的にも空馬さんはニーニーって感じですからね。
空馬:ニーニーというよりオト〜じゃない?(笑)。俺の母親は昔から「職場の飲み会には行かない」って言うのよ。なんでって聞くと「私が行くと、目上の人が来たと気を使われるからダメなのよ」と答えたのを覚えていて。俺がよしもとの楽屋で、後輩の会話に入っていいのかと迷うのも同じ感覚…。
松田ナビ:入ってくれた方がいいんじゃないですか!
空馬:嘘つけ、お前が言うな(笑)! だから、俺は後輩のために何かをやっている先輩だとは思えないな。
松田ナビ:空馬さんは仕事に対して、どういうモチベーションでいますか?
空馬:1人だった9年間、本当に寂しかったわけ。「いつかよしもとの沖縄事務所ができてほしい」って夢見てた。現実になって後輩やスタッフが増えて順風満帆ではなくても、喜怒哀楽を共有しながらみんなと過ごしていきたい。今の状況が未だに夢見心地でもあるよね。昔は名刺に実家の住所を書いて、「よしもと沖縄事務所」にしていた時代もあったから(笑)。
松田ナビ:勝手に実家を沖縄事務所にしていたとは(笑)! 仲間が周りにいるのがうれしいんですね。
空馬:後輩にはできる限り優しくしたい。子どもの時に友達が財布を失くして、本人は必死で探しているんだけど、周りの俺たちは探すのを手伝わなかった。でも、その後同じ経験をしたことがあって、「探してくれないなんて、みんな冷たい」って思ったんだよ。母にそのことを話すと、「私も同じことがあったけど、友達と一緒に探した。結局見つからなかったけど、その子は今も友達」と教えられ素敵だなって思った。そこから人が困っている時には、支え合うのが美徳だと考えたんです。その頃から「人を笑顔にして幸せを祈る仕事ができるといいな」ってイメージしていました。今、芸人として活動できているのは、その思いがリンクしたのかも。
人柄とネタのギャップが魅力!?
松田ナビ:多感な時期の出来事が、今の空馬さんを形成したんですね。献身的なお笑いの原点を感じました。
空馬:お金がなくても幸せになりたいと思い、頑張っています。独身だったら人のために人生を歩みたいって、もっと思っていたかも。
松田ナビ:僕は時としてワガママなお笑いをやってしまいますが、空馬さんは周りを見て人を活かす献身的なお笑いをするって思うんですよ。
空馬:俺はお前にそれを感じるけどな。MC役で人に話を振ってあげたり。
松田ナビ:僕は「みんなに話を振れてスゴイ」って思われたいという、よこしまな気持ちです(笑)。でも空馬さんは人が活きる話の振り方が自然にできます。人柄が出ますよね。
空馬:でもこう見えて、持ちネタは結構グロテスクなんだけどね(笑)。
松田ナビ:ここでは話せないくらいの、ブラックな設定のネタをやったりする(笑)。素の優しい空馬さんとのギャップが面白いです。
空馬:僕には発想やテクニックがないと自覚しているので、人柄を知ってもらい、そのギャップで「空馬のブラックネタは他の人とは違う」って思わせるのが狙い。
松田ナビ:人を傷つける訳ではなく、教訓を込めてネタにする感覚ですね。
空馬:そう。基本的に悪をバカにする思いを込めたものを、舞台で表現したい。今、俺・・・カッコ悪くて恥ずかしいかも。生まれて初めて話しました(笑)。
松田ナビ:かっこいいです! そんな思いがブラックネタに込められているんですね。
空馬:嫁は俺の性格わかっていて反撃してくれる。その嫁の反応を、お客さまにもやってもらえるようになったら幸せだなぁ。目指す先は大先輩の毒蝮三太夫さんみたいな感じかなぁ。
松田ナビ:テレビの生放送で空馬さんとご一緒した時、空馬さんのカリスマ・パーソナリティーさを肌で感じました。自分の武器はなんだと思いますか?
空馬:共に作品を作る人たちの意思を形にしようとするスタンスかな。クリエイターではなくて歯車的なキャラだと思う。
松田ナビ:空馬さんは笑いで周りをつなぎ、和を重んじています。僕はそうならない(笑)。僕はトークの場でしゃべっていない人がいたら、それは自己責任だと思うんですよ。
空馬:えっ!! 俺はしゃべってない人が気になって、何とかしゃべらせようとする。
松田ナビ:人を気にする気質が、空馬さんの武器なんだと思います。みんなの良さを活かしたい気持ちが、普段からあるんでしょうね。
空馬:だけど、本場関西の芸人さんは「優しい芸人は売れないよ」って言うんだよ(笑)。
松田ナビ:でも「結局は人柄」とも言われるし、格言的なことで惑わせないでほしいですよね(笑)。だけど空馬さんと一緒だと我々後輩でも居心地がいいですし、同世代の方たちも同じだと思います。お笑いのタイプは違っても、僕ができないことを全部できる先輩です。
空馬:俺は真逆。万人を笑わすようなネタは作れないので、お前たちとの勝負は絶対逃げる。面白くないって思われるのは嫌だから(笑)。
松田ナビ:芸人さんの戦い方はそれぞれ。苦労して頑張っている方は尊敬します。
空馬:芸人は1人1人が社長。自己プロデュースして武器をしっかり作らないと、生き残っていけないって思う。お笑いにかける温度差は個々にあるので、人柄やキャラに興味を持たれ何を言っても笑われる人になりたい。
キングス試合のMCは、毎回震えながら
松田ナビ:空馬さんは、プロバスケットボールチーム「琉球ゴールデンキングス」のMCとしてもおなじみですが、きっかけは?
空馬:以前お仕事した広告代理店の方が現在キングスのディレクターで、連絡をいただきました。ホームゲームのMCとして、2010年頃から始めたけど全然慣れない! 観客3000人の前に立つのは怖くて、毎回ブルブル震えながらやっています。
松田ナビ:お笑いのお客さんは多くて数百人。バスケット・コートだと四方八方から見られ緊張しますね。
空馬:とにかく盛り上げるのが役目。お客さんに問いかけて、突っ込んだり突っ込まれたり(笑)。毎試合自分の言葉で一言語っていて、たった15秒だけど毎回新ネタをおろす感覚。その時の言葉は書き留めずに、その瞬間の言霊を大切にしています。盛り上げられない時もあるけど、キングスのブースター(熱心なファン)さんは応援してくれてめっちゃ大好き!
松田ナビ:チームの状況や選手の特徴など毎年変わりますから、勉強する必要もありますよね。
空馬:事前情報はもらうけど、選手との親交は全くなし! 本当は飲みに行って自慢したいんだけどね(笑)。試合にくるお客さんたちの近くにいたいんだよね。なるべく選手とは距離を置き、常連ファンのみなさまを大切にしながら、初めて来てくれた人には寄り添いたい。まぁこれは自分で勝手に思っているだけだけど(笑)。
松田ナビ:コアなファンで固まると、初めての人は入りづらくなります。それを防ごうと常に初心でいるんですね。人柄も出せるキングスのMCはピッタリですね。
空馬:やって良かったし、ずっと続けたい! 良い雰囲気にするブースターのみなさまが素晴らしいんですよ。試合を見にきて面白くないって言う人は一人も見たことないし、絶対損はさせません。ぜひ応援に来てください!
松田ナビ:普段聞けてないことを聞けたインタビューになりました。最後に展望をお願いします。
空馬:話したくないことまでバンバン話したから、わじわじ〜する(笑)。これからは芸人・空馬良樹の人柄を伝える作業をもっとやりたい。毒舌でも「空馬が言うなら仕方ない」と思われるようになるのが、1つのゴールです。もう1つはステーキ店経営。小学生の頃の夢だったから。お前の家族、全員タダで食べさせるさ(笑)
松田ナビ:うれしい(笑)。店名は「お笑いステーキ」ですね。すべての夢をかなえようと頑張る空馬さん、ありがとうございました!
【対談を終えて・・・】
☆空馬良樹 さん☆
芸人からの初インタビュー。こんなにしゃべりやすいとは思いませんでした。僕のことを上手く引き出してくれたと思いますし、言いたいことを言って本心を盗まれた感覚。本音でしゃべりましたよ。
☆松田ナビ☆
人が傷つくことを言わない空馬さんは、いつも人のことを考えて生きていると思える先輩。本音を聞き出したかったので、素の空馬さんを知る時間になりました。いつか悩みを聞いてみたいです。
【プロフィール】
★空馬 良樹(くうば よしき)
生年月日:1975年12月21日
身長/体重:172cm /72kg
出身地:沖縄県読谷村
趣味:ゲーム/スポーツ
特技:人に笑われたい事
Twitter:@pegasasukuba
★松田 正(まつだ しょう)
生年月日:1984年8月22日
身長/体重:178cm /70kg
出身地:沖縄県読谷村
趣味:ソフトボール/漫画
特技:野球
Twitter:@hatsukoimatsuda
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お問い合わせ:チケットよしもと 0570-550-100
公式サイト==> http://www.yoshimoto.co.jp/okinawakagetsu
執筆:饒波貴子(フリーライター)
饒波貴子(のは・たかこ)
那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。