憧れは〝車庫飲みおじさん〟!? 日常を切り取り笑いを作る<ありんくりん・ひがりゅうたさん>◇沖縄芸人ナビFILE.11


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一人でも多くの人を笑わせたいと、ネタを作り続ける芸人さんたち。そんな純粋な思いを抱くゲスト芸人の本心に、ナビゲーターの「初恋クロマニヨン」松田正(まつだ・しょう)さんが迫ります。
今回は事務所の後輩、「ありんくりん」ひがりゅうたさん。終始会話が弾みましたが、特に盛り上がった「車庫トーク」とは!? 

(執筆:フリーライター・饒波貴子)

「沖縄芸人ナビ」は4月から「週刊レキオ」(毎週木曜発行)と連動しました。毎月第1週目のレキオで関連記事が読めるようになりました。ぜひご覧ください。

子どものころから沖縄感あふれるお笑いが大好きで影響を受けてきた、ひがりゅうたさん(ありんくりん/左)とナビ芸人の松田正さん(初恋クロマニヨン)。どちらも「よしもとエンタテインメント沖縄」所属 http://yoshimoto-entertainment-okinawa.jp/

沖縄にバッチリはまったキャラクターといえば、後輩コンビ「ありんくりん」。芸人そのものと思える芸達者なりゅうたは、どんな環境でお笑いを作り出すのか・・・聞き出しました。

原点は公民館! ネタチェックはあの有名音楽家?

松田ナビ:相方クリスとの出会いは!?

りゅうた:最初クリスは同期の「OCEAN 心輝(オーシャン しんき)」とお笑いをやっていて、遊び仲間だった僕はそばで見ていました。「コンビ組もう」ってクリスに言われても、就職しないといけないし・・・と気乗りしなかった。半年くらい言われ続けた所で「やってみよう!」と気持ちが変わり、3人で賞レースに出場しました。結果は全然ダメで(笑)、この後どうするかってなった時に心輝は「本土風のお笑いをやりたい」と言い、僕は「沖縄らしいのがいい」と意見が分かれたんです。

松田ナビ:クリスを取り合い!?そもそも3人の出会いは?

りゅうた:僕と心輝は幼なじみで、心輝とクリスは高校の同級生。トリオで始めたお笑いですが、クリスはどっちと続けたいのか話し合い、結局僕とコンビを組み「ありんくりん」になったんです。

松田ナビ:お父さんがアメリカ人のクリスとウチナー色が濃いりゅうたは、沖縄らしいコンビ。「俺たちいけるぞ!」という感覚はありましたか?

りゅうた:ありました! 2人が並ぶと、今までいなかったコンビになると自信を持っていました。でもクリスはイメージが沸かず、実践するしかないってことで地元の公民館で漫才をしたんです。

松田ナビ:よしもと沖縄に入る前に、舞台でお笑いをしていたって事?

りゅうた:はい。公民館の祝賀会などに出るためにネタを作りました。婦人会のおばさんや子どもたちが笑ってくれて手応えを感じ、参考にして「みなさんに喜んでもらえる、俺たちのお笑いを作っていこう」と決めました。

松田ナビ:原点は公民館、自分たちをよく知っているコンビだ!

りゅうた:普段着でやっていましたが、「アメリカ〜」とか「軍用地」と言うだけでウケました。うれしかったのは、人前に立ったクリスが手応えを感じた事。そのころ、りんけんバンドの照屋林賢さんにも会う機会があり、漫才を披露しました。「有名な林賢さんだ!」と僕は緊張しましたが、クリスは誰なのか分かっていなかった(笑)。でもそこから仲良くなりました。

青年会会長になりたかった少年

松田ナビ:林賢さんには今もアドバイスをもらっているとか!?

りゅうた:はい。最近は「四季」がキーワード。ただ笑わせようとするのではなく、人に影響を与える存在になりなさい。根本にあるりゅうたとクリスのお話をしなさい、などいろいろと教えてくださいます。

松田ナビ:お笑いの先輩ではないけれど、ミュージシャンとしての道を極めた林賢さんのアドバイスは素晴らしいな! 四季というのは・・・季節をネタで体現するってこと?

りゅうた:難しくて意味を理解していない部分もありますが(笑)、林賢さんの話を聞くのは絶対いいという直感で、毎日会いに行った時期がありました。今でも賞レース前はネタを見せています。りんけんバンドが好きなので、そのイメージで楽器を使った華やかなネタも作りましたよ。苦労しながら、笑いが取れるネタになるように期待を込めたんです。

松田ナビ:音楽を取り入れたお笑いは、りゅうたがやりたかった事の1つ! 林賢さんの反応は?

りゅうた:「そういうことじゃないんだよな〜」って感じ(笑)。歌うだけではなく笑いも取ります、と説明しました。

松田ナビ:林賢さんから見ると、楽器弾いて歌うのは普通の事だからな(笑)。でもお笑いの人がやるのは面白い。違う分野とはいえ尊敬できる林賢さんからのアドバイスは貴重ですよね。

りゅうた:沖縄のお笑いの始祖とされる小那覇舞天(ぶーてん)さんと(林賢さんの父の)照屋林助さんは、三線を弾いていましたよね。当時をイメージして、「三線や太鼓を取り入れるのが沖縄のお笑い」という思いもあります。

松田ナビ:今20代のりゅうたは、林助さんをリアルタイムでは見られなかったと思う。舞天さんの現役時代を知る機会もなかなかないけど、どこで勉強を?

りゅうた:お笑い始めようって決めて、NHK沖縄の特集番組を見た時、沖縄市に「てるりん館」があると知りすぐに行きました。照屋林助さんの息子さんが作る三線を販売し、舞天さんや林助さんの資料があってそれを見て「しに(とても)かっこいいな〜」って憧れるようになったんです。クリスと一緒にしょっちゅう行ってました。僕たちの登場のあいさつは「トゥンジタルムン」で始まるんですが、奥さんから林助さんが使っていたフレーズを教わって、それをいただいたんですよ。

松田ナビ:奥さんのお墨付きで、林助さんの言葉を受け継いだとはすごい! お笑い始めよう、じゃ〜クリスと通おうってなった訳?

りゅうた:すごく暇だったので(笑)、話聞こうぜ〜って行きました。上手く言えないんですけど、行かないといけない気持ちになったんです。林助さんは林賢さんのお父さんですし。

松田ナビ:りゅうたは舞天さんの物語を舞台化した。やりたい事なんだ!っていう思いが伝わってきて、カッコいいと思いました。三線が弾けて歌も達者だけど、育った環境は?

りゅうた:とにかく青年会に入りたかった!小学生の時の夢は青年会の会長になる事。入れない中学生の時はエイサーの練習を見ながら地方(じかた)をまねて、三線ができるようになりました。民謡に興味があったとかではなく、おとうはギター(笑)。周りに三線弾くような人はいませんでした。

松田ナビ:いい武器手に入れたな〜。沖縄でお笑いをやり、他県でもウケる三線が弾けるなんてめっちゃいい! りゅうたが言うように三線を弾いて漫才し、林助さんの「ワタブーショー」のような事をするのが元々の芸人さんというイメージがあるので、りゅうたは「ザ・芸人」の風格がありマジですごいです。三線弾けて歌えるりゅうたとアメリカンなクリスは沖縄らしいコンビ。「O-1グランプリ」「お笑いバイアスロン」という県内2大賞レースで王者になった現在、今後の目標は?

りゅうた:しっかりしたパフォーマンスができるように努力する事。音楽や踊りで沖縄の人を笑わせたいですが、まだまだ。

車庫から響く音色と笑いのように

松田ナビ:去年「原点に戻った」とインタビューで言っているのを聞いたんですが、その心境は?

りゅうた:本土風のお笑いをやろうという時期は全然ウケず、自信もなくして賞レースでは勝てんなって感覚でした。「上手なふりしてなんで気取ってるば〜」ってイライラしてきて、優勝するだけが目標じゃない。「多くの人にネタを見てもらう」のが初心だったと思い返して、楽になったんです。

松田ナビ:3月からは月に1回、単独ライブ「毎月ありんくりん」を始めましたね。

りゅうた:怠ける癖があるので、毎月やるのはいい事です。2人だけでトークの技を磨く、頑張り時ですね。毎月新ネタ2本を作るのは、めっちゃ大変ですけどね。

松田ナビ:自分の長所と短所を挙げるとしたら?

りゅうた:短所は恥ずかしがり屋で、やばいくらい人見知り。お笑いの長所は空気が読める事かも。ここでこれ言ったらウケるなぁってのが分かります。末っ子の僕は、子どもの時めっちゃ明るくて、モノまねして面白い事言って、みんなを笑わせていました。でも高校受験に失敗して、性格がガラッと変わりました。オカーが悲しんでいる顔を見てで〜じ(すごく)考えてしまい、勉強すれば良かったと後悔し、人の目を気にするようになりました。翌年無事高校に入学できて、何とか卒業しましたけどね。

松田ナビ:お笑いを始めたのは何歳?

りゅうた:20か21歳位。それまではペンキ屋のオトーを手伝ったり、季節労働で内地行ったり、職業訓練受けたり。器用にアルバイトできるタイプではないし、どんな仕事に就いていいのかも分からない。クリスと出会ってお笑いやろうぜってなって、本当に良かったです。

松田ナビ:青年会には、無事入れましたか?

りゅうた:はい、高校生の時から今も続けています。地元愛は強い方ですし活動が盛んで、先輩たちの話を聞いて楽しんでいます。

松田ナビ:りゅうたは地域の行事でやるような事をテレビでやり、青年会のノリで舞台でトークしたいんだな。そして舞天さんや林助さんのネイティブなテイストで、お笑いを表現したい! りゅうたがペンキ屋やっているところを想像したら似合うけど、今もお父さんを手伝ったりする?

りゅうた:最近は手伝っていませんが、ペンキ屋大好きなのでオトーがその仕事で良かったと思うんですよ。

松田ナビ:ビートたけしさんのお父さんもペンキ屋で、東京タワー塗った。りゅうたのお父さんもペンキ屋で、沖縄電力の牧港の・・・。

りゅうた:塔を塗った男です。子どものころ一緒にペンキ缶を売りに行ったし、ペンキ屋のおじさんたちが車庫でお酒を飲む雰囲気も好きです。

松田ナビ:東京タワーよりスケール下がるけど、沖縄電力の塔もすごい! なぜかペンキ屋と板金屋の人たちは車庫でお酒飲む(笑)。俺もめちゃくちゃ憧れるやっさ〜。中部感というか・・・沖縄の下町風な環境で育ってきた感じ。俺も読谷の農業やっている家で育ったから似た感覚もあり、そういう部分の延長線上のお笑いを見せたい気持ちになるな。

りゅうた:車庫で酔っ払って、ろれつが回らなくなったオジーたちが弾く三線! で〜じカッコよく感じるんですよ、味があるというか。こんなのいいな〜って、子どものころから思っていました。

松田ナビ:よく分かる。俺も沖縄のお笑いがずっと好きだったから、沖縄色全開のありんくりんを見た時、うらやましい気持ちもあったなぁ。県民全員を喜ばせたい気持ちのお笑いを、実践しているコンビなんだろうな。

りゅうた:そうです(笑)。東京や大阪の先輩と舞台に出て自信がついたり、いろいろ言われてもやるしかないと思ったり、最近変わったかもしれません。

松田ナビ:開き直りのような「俺たちのままやろうぜ!」というので、前よりいい感じになっている。車庫の話は最高だし、夕方道端に座ってしゃべるオバーたちもいい。隠しマイク付けて話聞いたら、相当面白い漫才になっているよ。ああいう話をネタにしたい。

りゅうた:隠しマイクは思い付きませんでしたが(笑)、あのおじさん・おばさんたちは、何であんな面白い事言えるんだろうって思いますね。

松田ナビ:そういった日常のシーンを上手く切り取って、パフォーマンスとして仕上げているのがありんくりんのりゅうただと思います。「車庫で飲んでるおじさんコント」を今度一緒にやりたいな(笑)。最後に展望を聞かせてください。

りゅうた:ありんくりんはパフォーマンス力を伸ばし、沖縄の全ての人に愛される芸人を目指します。個人としては三線弾いて歌ったりしたい。俺たちはピン芸人2人のようなものですし、小那覇舞天さんの物語を舞台化した「ヌチヌグスージさびら~沖縄のチャップリンと呼ばれた男~」を映画にしたい気持ちもあるので、もっと頑張ります!

【対談を終えて・・・】

☆ひがりゅうたさん☆
初恋クロマニヨンさんのネタが大好きで、それを書いている松田さんのストイックさやブレない気持ちがカッコよく、尊敬しています。言いたい事が言えた楽しい時間でした。

☆松田ナビ☆
最高だった「車庫話」は、りゅうたをよく表したエピソード。生まれ育って来た環境が今の面白さにつながり、上手にお笑いに生かしているとあらためて実感しました。楽しかったです。

【プロフィール】

★ひがりゅうた/ありんくりん

生年月日:1992年7月10日
出身地:北中城村
趣味:三線、沖縄古典芸能鑑賞
特技:三線、うちなーぐち
Twitter:@LF6AYC56zG2dpBV

★松田 正(まつだ しょう)/初恋クロマニヨン

生年月日:1984年8月22日
出身地:読谷村 
趣味:ソフトボール/漫画
特技:野球
Twitter:@hatsukoimatsuda

 


 

【よしもと沖縄花月 インフォメーション】

① 慰霊の日特別公演「ヌチヌグスージさびら~沖縄のチャップリンと呼ばれた男~」
日時:6月23日(日) 19:15開場/19:30開演 
料金:前売り・当日ともに1000円 
出演:ありんくりん、空馬良樹、初恋クロマニヨン 新本、カシスオレンジ あらた、たろう、猫ノカケラガツン!と岸本、ハイビスカスパーティー、A16、マルキヨビルしょうへい

② よしもと沖縄若手ネタバトルライブ「よしもと-Uchinah-ランキング」
日時:6月14日(金)19:15開場/19:30開演
料金:前売り・当日ともに1000円 
内容:沖縄芸人が全組出演!お客様の投票によってランキングが決定します!

会場・お問い合わせ:【よしもと沖縄花月】
那覇市前島3-25-5 とまりんアネックスビル2階 (マップはこちら)
☎︎098-943-6244
公式サイト==> http://www.yoshimoto.co.jp/okinawakagetsu/

ライタープロフィル
饒波貴子(のは・たかこ)
那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。