琉球絣(かすり)の産地として名高い南風原町本部、照屋、喜屋武を結ぶ「かすりの道」。みんな「かすりロード」と呼ぶけど、実は「かすりの道」が正式名称らしい。
絣の柄があしらわれた壁や石畳の路地を進むと、織物工房や湯乃し屋(洗濯屋)、糸はり場などが見えてくる。昔ながらの風情が残る「かすりの道」を記者がほろほろ(ぶらぶら)した。
まずはここから
ここを見ずして「かすりの道」は語れない。伝統を守りながら、新たな魅力を生み出し続けている「琉球かすり会館」 1 。この日は5人の織り師が黙々と絣を織っていた。
「今は夏物の薄い絣を織っています。去年初めて作品を仕上げたばかりで、まだ分からないことが多いんです」。八重瀬町の工房から来ていた上運天ゆりさん(26)が、笑顔で答えてくれた。
時々、手が止まる。織機の動かし方が分からず困っていると、隣りのベテラン織り師が助けてくれた。「ここはすご腕の方がアドバイスもしてくれる、とても大切な場所なんです」(上運天さん)。伝統継承の瞬間を目の当たりにした。
歩きながら学べる
琉球かすり会館のすぐそばに「かすりの道」の入り口はある。静かな住宅街に石畳の道が続く。道中の壁には絣の模様について説明したパネルが設置されている。
「カキジュー(鍋などを引っかけてつるす道具)」「ブリブサー(群星)」「トゥイグワー(鳥)」。
絣の模様は生活の中にある道具や自然、動物などにヒントを得て生まれたようだ。よう記者は歩けば歩くほどいろんな模様に出合う楽しさにとりつかれた。
「全パネル攻略しよう!」と、同じく夢中のきせさんカメラマン。パネルを見つけては走り寄り、写真を撮ってメモをする。「かすりの道」は通るみんなを絣の虜(とりこ)にしてしまう力があるようだ。
絣の小物がかわいい
イジュンガー公園を左に見ながら進むと、女性が絣を織っている様子が窓から見えた。看板には「丸正商店」 2 の文字。
お店の入り口に回ると、黒ひげのような模様があるぽっちゃり猫が、出入り口のど真ん中に寝そべっていた。
織物をしていた太田恵さん(51)が記者に気付き、店から出てきてくれた。「この猫、『顧問』って呼んでるんです。態度が偉そうでしょう。猫につられてお店に来る人が多いんですよ」とにっこり。
「顧問の他に『課長』もいるんです」と聞き、辺りを見渡すと、くつろいだ様子の「課長」の姿が。猫が大好きなすみれ記者が近寄っても、全く動こうとしない。
お店の中には絣を使った名刺入れや財布、ネクタイなどが並んでいた。絣のことをよく知らないすみれ記者も「絣ってこんなアレンジもできるんだ」と可愛らしい小物たちに興味津々で、しばらくお店を離れられなかった。
絣の洗濯職人
「丸正商店」を出て、再び絣パネル探しに熱中し出した頃、よう記者が最も楽しみにしていた“絣の洗濯屋”「湯乃し屋 大城」 3 にたどり着いた。うきうきしてのぞき込んだ先には―。
何も干されていない。がらーんとした空間が広がっていた。呆然としていると、「今日は曇ってるから干さないよ」と声が聞こえた。「湯乃し屋」の主、大城広次郎さん(84)だ。確かに曇っている。天候はどうにもならない。諦めて、その場を後にした。
数十分後、後ろ髪を引かれる思いでもう一度訪ねると、大城さんが3枚の反物を干し始めていた。「晴れてきたからね」。多くを語らず、静かに反物と向き合う大城さん。布が縮まないようピンと伸ばして干していく。意外と力作業のようだ。大城さんの二の腕は筋肉で引き締まっていた。
いつの間にか観光客の女性2人も、大城さんの仕事姿に見入っていた。「めったにないことだな」。初めて笑顔を見せた大城さん。うれしそうに、50年以上使い続けている湯乃しの機械も見せてくれた。
「この仕事で生活はできないよ。でも必要だと言う人がまだいるからね」。反物3枚が、気持ちよさそうに風に揺れていた。
ボリューム満点!
「かすりの道」を練り歩いて約2時間。おなかが減って仕方がない。町内のレストランを食べ歩くことにした。
南風原南インターチェンジを下りて県道82号を照屋方面に進むと見えてくるのが「咲(さかす)レストラン」 4 。「地域に愛されるお店を目指している」と話すのは店長の大城聡さん(43)。
この日は町内公民館の担当者十数人がランチミーティングを開いていた。「ボリュームがあっておいしい」とランチを頬張りながら和気あいあい。
言葉通り、Bランチはハンバーグ、チキンソテー、とんかつ、ウインナーなどがてんこもり。これにライスやスープもついて税込み1180円。ライスはおかわり無料だ。
「咲レストラン」の向かいに店を構えるのが「金門飯店(きんもんはんてん)」 5 。南風原町特産のヘチマを使った「マーボーヘチマ」や仕入れ状況によって具材が変わる八宝菜ならぬ「十宝菜(じゅっぽうさい)」が有名らしい。この日は十五菜を使っていた。
マーボーヘチマは台湾出身のオーナー・劉茂松(りゅうしげまつ)さん(49)が「ヘチマが苦手な人でも美味しく食べられる料理はないか」と考案した一品。
「みんなが食べやすい中華」と劉オーナーが言うように、ちょうどいい辛さのマーボーが絡んだヘチマはご飯が止まらなくなるおいしさだ。
ほろほろした1日を締めくくるには、(昼だけど)これぞ締めの一杯、ラーメン。
かすりの道から町役場を通り過ぎて県道82号を照屋北交差点方面に歩くと虎が大きく描かれた看板が目を引く「虎威原(とらいばる)」 6 がある。南風原町出身で虎が好きという店長、新垣正明さん(43)が虎と南風原を掛け合わせて付けた店名だ。
「辛味噌らーめん」が一番人気だそうで、ラーメンを食べたケイゾーカメラマンは「うまい!」と満面の笑顔。麺やチャーシュー、スープなど全て手作りの店長こだわりの一杯に大満足だ。
(2019年7月7日 琉球新報掲載)