「初恋クロマニヨン」の松田正(まつだ・しょう)さんがナビゲーター役となり、沖縄県内にあるお笑い三事務所(FEC・オリジン・よしもと沖縄)を訪問! 芸人仲間を直撃するコーナーです。今回はオリジン・コーポレーション、「しんとすけ」のボケ役「しん」さんを訪ねました。しんさんにとって松田さんは憧れの先輩。緊張気味で対談はスタートしましたが、ネタ作り担当ならではの共通の悩みで大いに盛り上がりました!
(執筆:フリーライター・饒波貴子)
「沖縄芸人ナビ」は4月から「週刊レキオ」(毎週木曜発行)と連動。毎月第1週目のレキオで関連記事が読めるようになりました。ぜひご覧ください。
草野球のチームメイトだという、しんさん(オリジン・コーポレーション所属(左)http://origin-oze.com)とナビ芸人の松田正さん(よしもとエンタテインメント沖縄所属http://yoshimoto-entertainment-okinawa.jp/)。2人でゆっくり話す機会はあまりなく、この対談は貴重な時間になったようです。
相方との理想の関係は、夫婦か恋人!?
松田ナビ:秘めたる闘志を持っていて、思いを曲げたくないタイプ・・・しんにはそんなイメージがあり、自分に似ているかもしれないと感じていました。
しん: 騒ぎ立てるようなタイプではなくて、自分でも結構頑固だと思います。相方の「首里石嶺」とネタ合わせをしている時など、「こうツッコミたい」と言われても「違う!」と返す事がありますから。
松田ナビ:頑固なイメージある! 俺も頑固で。コンビでのディスカッションはする方!?
しん: はい。でも首里もむちゃくちゃ頑固なので、折れないんですよ。アイツは考えがまとまってないのに「要するに〜」って頭に付けて理詰めで説明するので、ブチ切れてます。代替案もなく否定されたら「9割9分のボケを出しているのは俺だ!」って怒って、ネタ合わせで揉めてます(笑)。
松田ナビ:めっちゃ分かる〜。ネタを書くの、ほとんどしんでしょ!? 「お前が言ってる事、俺もう何時間も前に通り過ぎている」みたいな感覚になるしな。愛嬌がある首里は周りからかわいがられていて、個性的なツッコミをするキャラクター。それをしんの台本の中に落とし込むのは大変? それとも助かっている?
しん:舞台では安心する事が多いです。ミスったらアイツの愛されキャラでお客さんが笑って、ネタじゃないところで笑いが広がります。ネタを書いている立場としては不本意ですが、最近はありがたいと感じるようになりました。昔は「ここじゃねーぞ!」って怒ってましたし、練習の時はイライラしてますけどね(笑)。
松田ナビ:俺はまだその境地に達してない。相方の新本が間違えたらただ腹が立つ(笑)。 お客さまを楽しませる瞬間としてはすごくありがたいけど、作品としては出来てないからね。アイツらネタを書く方の気持ちをマジで分かってないよな(笑)! 一般的にも・・・ネタを書いている人たちの苦労や報われない立場は、市民権を得られていないと思えます。
しん:フリの段階でせりふをかんだりした時は、舞台を降りて一応謝るようになったので、前より良くなったんでしょうね。
松田ナビ:一言あるのとないのとでは大きく違う! 「ありがとう」ほしいなって思う時ない?
しん:あります。遠回しに言うのではなく、ストレートな「ありがとう」と「ごめんね」がほしい時がある。恋と一緒です。
松田ナビ:夫婦の関係に近いかも。言ってくれたらそれだけでいい。文句など言わず無理強いもせずに俺がネタを作るから、とにかく「ありがとう」と「ごめんね」だけちょうだいって言いたい! しんはポリシーが強そうというか、尖っている感覚を持っているというか・・・。
しん:今は少し丸くなったかもしれません。お笑いを始めたころは、変な方向にむちゃくちゃ尖っていました。事務所に入りたての頃は誰ともしゃべらず、稽古始まるまで喫煙所でずっとタバコを吸っていました。フリーで「O-1グランプリ」決勝に2回連続で行って、その後事務所(オリジン)に入ったので、「こいつらか!」というような目で見られていたんでしょうね。相方の首里は人懐っこいのでみんなとしゃべっていましたが、僕はできなくて。
一生丸刈り!?
松田ナビ: 尖っていたしんがチームプレイできるようになったきっかけは? 単純に年を重ねてってこと!?
しん:それもありますし、事務所の社長や先輩が気遣ってくれました。「こきざみインディアン」のもーりーさんがごはんに連れて行ってくれて、ダイエット中だった僕はサラダしか食わないみたいな・・・今思えば恐ろしい態度だった時代もありました(笑)。
松田ナビ:だいぶ尖ってたな(笑)。今は事務所の中堅クラスになって、変わっただろうし後輩に頼られたりするんじゃない?
しん:事務所全体でネタ見せとダメ出しをやっているので、ネタの設定などを後輩に相談されるようになりました。僕たちは先輩のリップサービスさんにダメ出しをお願いしています。お客さん寄りというか、客観的にネタを見てくれる感じがしますから。
松田ナビ:ネタを作っていく上でのポリシーも教えてください。
しん:ポリシーは・・・とにかく最初はすごく尖っていて、同期入団5組の中ではチヤホヤされ、すぐに事務所内で上位になると思われていたんですよ。でも実際は、事務所のランキングライブで5組中最下位。それまで自分たちの好きな事をやって「O-1グランプリ」の決勝まで進んでいたので、余裕でトップに登りつめるくらいの気持ちでいたんです。でもそれが同期の中で一番下・・・。鼻を折られました。トップだった先輩のリップサービスさんを見て、「お客さまはそういうテイストが好きなんですね」と納得するしかなかったです。
大喜利感覚のネタの作り方を、変えなければいけないと思いました。それでお客さんに寄せた時期には、だんだんランキングが上がりましたが、また落ち始め・・・。自分たちのエッセンスを入れるネタを続けてきたら、ようやく上位に行けるようになってきました。俺の発想の俺しかやっていないボケを何個か入れるのを意識しているというか、「芸人だけが笑えばいいや〜」みたいなボケを入れています(笑)。
松田ナビ:バランスが大事! それをエッセンスとして入れていくのは、めちゃくちゃ良いかも! お客さんも笑ったら儲けもんだけどバランスを取るのは難しく、本当は俺の大喜利面白いだろうっていう感覚だけでネタを作りたい。だけどみんな鼻を折られてお客さんに寄せて・・・そうしながら自分のやりたい要素も入れて30歳を過ぎていく(笑)。自分の中でのルールみたいなものはありますか? 俺の唯一のルールは、自分を「芸人」と言わない事。「お笑いやっています」と自己紹介はするけど、「芸人やっています」ってのは恥ずかしい。芸人と言いたいだけのヤツになりたくないというか。自信を持って名乗るのはいいけれど、「俺芸人です」って言いたいだけなのかと思える人が時々いるんだよね。
しん:芸人という肩書きがほしくて養成所に入る人、いたりしますね。僕のルールは何だろう!? 金髪ロン毛だったのを、テレビ番組の企画で丸坊主にしました。笑いやすくなるようにって事だったんですが、伸びてくるとバリカンを入れる長さを決めています。それってルールとは違うかな(笑)!? でも一生丸刈りでいますよ!
松田ナビ:見た目で笑いやすくってのはアリだと思う。俺も見た目で怖いって言われる方だから、そこ分かる(笑)。丸刈りにして、お客さんの見る目は変わった?
しん:表情が明るくなったとか言われますし、ネタ中にめちゃくちゃ笑顔になろうと意識するようになりました。前は表情筋を使わないネタばかりだったので、今は喜怒哀楽をがっつり顔で表現しています(笑)。
松田ナビ:同じ事務所の「じゅん選手」と「しんとすけ」は、ユニットを組み「じゅんとすけ」としても活動している。「O-1グランプリ」で優勝し3人でライブを続けているけど、その意図は?
しん:同期なので「3人で何かできたら」というのがきかっけ。全員参加の事務所の定期ライブ「喜笑転決」は月に1回那覇で開催しているので舞台数を増やそうと考え、「じゅん選手」が住んでいる宜野湾でやってみるのはどうか。「喜笑転決」に来た事がない人に見てもらえるし、同じネタをもう1回できると思い「じゅんとすけ」ライブをスタートしました。4年近くやっているので、3人ネタも結構あります。それから「しんとすけ」として2人でしゃべる機会を作りたくて、最近FM那覇のイベントスペースでトークライブも始めました。楽しんでいますが集客がキツイ! 僕のお父さんをゲストに呼ぶ回もありました。
松田ナビ:お父さん出すの早くない!?(笑) ところで相方の首里との出会いはいつ?
しん:高校の野球部で一緒でした。雨の日は室内でトレーニングするので、その時1年生と2年生が3年生の前で一発芸をやるのが恒例。全員すべってました。
松田ナビ:野球部でそういうのある。先輩はすべるのを見ようとしているからな。
しん:先輩が精神を鍛えるためという雰囲気を出してくるのが悔しくて、相談して2人でやってみました。すべるのを期待する先輩たちの前で気合いを入れた2人がネタを始め、多少ウケるようになったんですよ。でもムカついたのが、首里の発言がウケる事。首里の2歳上のお姉ちゃんが同じ首里高の人気者で、「弟がボケてる」って事だけで何を言っても笑いが起こるんです。気づいた時は怒りがフツフツと沸き、ネタをもっと仕上げてやるって思いました! 野球部でのネタ披露がきっかけで、文化祭などに出るようになったんです。でも首里の親が厳しくてお笑い活動を反対された事もあり、本格的に活動するまで時間が空いています。高校卒業後に進学した首里は大学在学中に違う人とお笑いをやって意欲が目覚め、大阪で働いていた僕に会いに来たんですよ。「お笑いやろう!」って言われました。それで急きょ沖縄に戻ってきた僕は、当時の記憶がありません(笑)。本気でお笑いやるぞという気持ちも最初はありませんでした。遊び感覚という事でもなかったですけどね。
松田ナビ:一度離れたけど、首里は「相方はしんがいい」って思ったんだな。ドラマがあるコンビだ! 若いころは勘違いがあると思うけど、「しんとすけ」の2人は勘がいい。求められている事を知っていて、良い反応のもらい方も分かっているような気がする。
しん:2人ともしたたかなのかもしれません。こういう流れでこのボケで行こうぜって計算しています。企業様からの呼ばれ案件のネタはヨイショも入れますし(笑)。連続して呼んでくれた企業様は、まだありませんけどね(笑)。
松田ナビ:頑張って情報を入れ込んでも、評価されない現実もある(笑)。
ラッキー続きの「しんとすけ」!?
松田ナビ:しんとすけは、やっぱりバランスがいい。首里がかわいいと思われがちだけど、俺はしんがかわいいと思えるな。発想力とか高いし、キレキレのことを言ったりするけどたまに手が震えたりとか(笑)。人間らしいところもあり、「お笑いかわいい」って言うのかな。
しん:かわいいですか(笑)!? いじられたらテンパりますけど。しょうさんのようなタイプは、それも面白がるんでしょうね(笑)。
松田ナビ:お客さんには意外とウケない場合もあるけどな(笑)。事務所に入る前からネタを見ていた「こきざみインディアン」さんをはじめとする先輩とは、どんな関係を築いていますか?
しん:「こきざみインディアン」さんには、かわいがってもらっています。漫才師であるこきざみさんと「リップサービス」さんが先輩なのはありがたい。こきざみさんの漫才はめっちゃ「発想」でリップさんは「構成」だと思っていて、その中間を行けたらいいなとイメージしたりします。
松田ナビ:目指すポジションが分かりやすい! そしてトップレベルで面白い人たちがいて話も聞ける、いい環境。
しん:はい! 入った時期や「じゅん選手」が同期、たまたま後任としてラジオや舞台出演の機会をもらったり、ラッキーが続いています。
松田ナビ:最後に今後の展望をお願いします。
しん:「はちノリ」というユニットを組んでいる「初恋クロマニヨン」さん、「知念だしんいちろう」さん、「ノーブレーキ」さん、「リップサービス」さんという先輩の層と、「ハンサム」さん、「こきざみインディアン」さん、「ベンビー」さんという大先輩の層に少しでも追いつけ追い越せ。お笑いだけで食っていける芸人になりたいです。
松田ナビ:そうね、分かります。今日は何か汗をかいた対談になりましたが、早くまた野球やりたいな!
しん:報われない気持ちを運動で晴らす傾向がある僕は、沖縄市のライブですべったら那覇まで走って帰ります(笑)。だから野球も本当に楽しみにしていますよ!
【対談を終えて・・・】
☆しんさん☆
しょうさんのことは「ずっととんがり続けている先輩」、という印象を持っています。そこが憧れであり、僕もブレずにそういう姿勢でありたいといつも思っています。今日は緊張しましたがありがたい機会でした。
☆松田ナビ☆
しんはやっぱり、似ているトコあるなって思いました。例えばネタを一生懸命書いて報われない時は、「チクショー、書いているの俺だぞ!」と悔しくなりますが、そういう気持ちを共感できる後輩だと思っています。お笑い的な部分でももちろん共感できるので、その思いを胸に一緒に野球がしたいです!
【プロフィール】
★しん/しんとすけ
本名:宮城 伸(みやぎ・しん)
生年月日:1989年4月19日
出身地:那覇市
趣味・特技:映画鑑賞、でんぐり返し
Twitter:@z4t73i86dvipizq
★松田 正(まつだ しょう)/初恋クロマニヨン
生年月日:1984年8月22日
出身地:読谷村
趣味:ソフトボール/漫画
特技:野球
Twitter:@hatsukoimatsuda
【インフォメーション】
オリジンお笑いライブ喜笑転決 Vol.282
日時:9月28日(土) 18:30開場/19:00開演
会場:那覇市ぶんかテンブス館4階テンブスホール (マップはこちら)
料金:前売り・当日共に中高生・一般1500円/小学生1000円/未就学児無料(膝上)
出演:こきざみインディアン、ベンビー、リップサービス、じゅん選手、しんとすけ他オリジン芸人
お問い合わせ:オリジンコーポレーション
☎︎ 098-866-6118
公式サイト==> http://origin-oze.com/
◆よしもと沖縄花月フライデーナイトライブ(YOFライブ)◆
「よしもと-Uchinah-ランキング」
日時:9月13日(金)19:15開場/19:30開演
料金:前売り・当日ともに1000円
内容:よしもと沖縄芸人全組出演!お客様の投票でランキングが決定します!
会場・お問い合わせ:【よしもと沖縄花月】
那覇市前島3-25-5 とまりんアネックスビル2階 (マップはこちら)
☎︎ 098-943-6244
公式サイト==> http://www.yoshimoto.co.jp/okinawakagetsu/pc/index.php
執筆:饒波貴子(フリーライター)
ライタープロフィル
饒波貴子(のは・たかこ)
那覇市出身・在住のフリーライター。学校卒業後OL生活を続けていたが2005年、子どものころから親しんでいた中華芸能関連の記事執筆の依頼を機に、ライターに転身。週刊レキオ編集室勤務などを経て、現在はエンタメ専門ライターを目指し修行中。ライブで見るお笑い・演劇・音楽の楽しさを、多くの人に紹介したい。