海からの宅配便 しかたにさんちの自然暮らし(18)


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 近ごろ、ネット通販による荷物の急増で、宅配便の配達現場の方々にサービス残業や長時間労働が強いられている、というニュースを聞きます。私もしばしば通販を利用しますし、沖縄では特に、送料の安い通販はとてもありがたい。でも、実際の輸送コストは必ずかかっているので、こちらが支払わなければ、他のどこかで、別の人がその分のコストを払わされていると考えるべきでしょう。家に帰って、ポストに不在票を見つけると申し訳ない気持ちになります。最近は宅配ボックスや、近くのコンビニなどでも受け取れるサービスがあるので、少なくとも配達の2度手間をかけさせないよう協力したいですね。社会の便利な仕組みの裏で、どこかにしわ寄せがいっていないか、利用する側が「気を配る」ことも必要そうです。

 ところで、この冬はいくつかの離島に出かけて、漂着ごみについての出前授業を行いました。実は、離島の浜辺を歩きながら、ごみばかりではなく、自然の漂着物を探すのが私の楽しみです。

漂着した種子から、新芽が伸びて開いていました。

 沖縄の近くには黒潮が流れています。黒潮は、流れに乗ったものをどんどん流していき、近くの島々にそれらを配達してくれます。つまり、海流は「海の宅配ルート!」

 黒潮は海のハイウェイと呼ばれるほど、世界的にも速い海流の一つです。流速は2~4ノット、1秒間に1~2mです。試しに、1秒間に1~2mの速さで歩いてみてください。これが海の流れだと思ったら、結構速いですよ。しかも、流れの幅はおよそ100km、水深は1,000m近くにも達するのですから、これだけの海水が動くと思うと相当な力ですね。

 先日訪れた宮古島の、さらに北から橋でつながる池間島の北向きの浜には、たくさんの漂着物がありました。大きな植物の実では、ヤシの実や、四角い角のあるゴバンノアシ。どちらも固い皮の内側に繊維質がふかふかに詰まって、水に浮いて遠くまで流れやすくなっています。

 実の他には、海面に浮かんで流される生き物もいます。それってプランクトン?と聞かれるのですが、プランクトンは「水中」を漂う生き物。いつも「水面」にいて大海原を漂う生き物には、ニューストンという別の呼び名があります。これらも、海流に乗って各地の島々に流れ着きます。

カツオノエボシ。青いところには触らないで。
潮だまりで見つけたカツオノカンムリ。すごく小さいのも!

 例えばカツオノエボシ。透明な風船に、青い糸のような触手がついて、この青い部分を触ると刺されます。とっても痛いので、危険生物として有名です。これの仲間で、カツオノカンムリというのもいます。上から見ると楕円形、横から見るとヨットの帆のような三角形がついていて、これで風を受けて水面を進みます。触手は短いですが、やはり青い部分には触らないでくださいね。

アサガオガイ。この泡は触っても壊れません

 巻貝も浮かんでいます。アサガオガイやルリガイという小さな青い貝で、触っても割れない丈夫な泡を作り、これを浮きにして海面を漂います。

 ニューストンに共通なのは、体が青いこと。これ、海の青に体を紛れさせるためなんです。この時期、海流に乗った生き物や種子が浜辺に配達されているはず。ごみ拾いもしつつ、ぜひ海からの宅配便を探してみてくださいね。

鹿谷麻夕(しかたに自然案内)

 しかたに・まゆ 東洋大、琉球大卒。東大大学院中退。東京で生まれ育ち、20代半ばで文系から理系に転向、沖縄に来てサンゴ礁を学ぶ。その後、しかたに自然案内を主宰し、県内で海の環境教育を行う。本と音楽と野良猫を好む。