EUやアメリカ、世界の未来が変わったかもしれない!? Facebookデータ不正利用から考えるSNSとの付き合い方 モバプリの知っ得![48]


この記事を書いた人 稲嶺 盛裕

イギリスの選挙コンサルタント会社「ケンブリッジ・アナリティカ」が、Facebookから取得した個人情報を不正に利用し、選挙広告に使用した疑惑が出ています。

ケンブリッジ・アナリティカの元幹部、クリストファー・ワイリー氏がニューヨークタイムスに内部告発をしたことがきっかけで、事件が明るみになりました。

ケンブリッジ・アナリティカは、2016年6月の「イギリスのEU離脱を問う国民投票」ではEU離脱派を、そして2016年10月のアメリカ大統領選挙ではドナルド・トランプ氏の応援にまわり、当選を導きました。

世界の命運を握る重要な選挙が、SNSから流用した個人情報で簡単に操作されるのであれば、とても怖いことです。
私たちが普段何気なく使っているSNSも使い方を気をつけ、警戒しなければなりません。

 

おもしろい「性格診断アプリ」だと思っていたら…

イラスト・小谷茶(こたにてぃー)

ことの発端は、2014年にFacebookで流行した、性格診断のアプリでした。

ケンブリッジ大学の研究者、アレクサンドル・コーガン氏が研究目的で作ったアプリで、「質問に答えると性格がわかる」といったよく見かけるものでした。

みなさんもやったことありませんか? または、Facebook上の友人の診断結果など見かけたことはないでしょうか?

コーガン氏はこのアプリを使い、約27万人のFacebookのプロフィール情報や趣味志向のデータを収集。
ここまでは「研究目的」のため、Facebookの利用規約に沿った使い方ですが、その後収集したデータをケンブリッジ・アナリティカ社へと売却。そしてケンブリッジ・アナリティカ社がユーザーの情報を選挙広告に使ったというのが一連の流れです。

現在、ケンブリッジ・アナリティカ社はこうした疑惑を否定。データを選挙に使ってもいなければ、Facebook側からデータを破棄を求められた段階で破棄したと主張しています。
またコーガン氏もケンブリッジ・アナリティカにデータを売却することをFacebook側に伝えていたが、Facebookは止めなかったと主張しています。

 

ユーザー情報がどう選挙に使われたのか?

今回の一連の疑惑で怖いところは、SNSのデータが不正に流失したこともさることがら、選挙結果に多大な影響を与えたことです。

Facebookに登録しているプロフィール情報、「いいね!」で分かる趣味志向。さらには性格診断から分かるその人の特徴…。
ケンブリッジ・アナリティカは、不安を覚えやすい人には不安になるような選挙広告、怒りっぽい人には感情を煽るような広告を出したとされています。

Facebookに限らず、GoogleやAmazonなどもユーザーの行動を読んで「こういうの好きですよね?」と提案してくれる機能がありますね。

Googleの場合は、よく調べるサイトと似たサイトを提案したり、いつも同じ時間に通勤していると「勤務先まで30分で着きますよ」と教えてくれたりします。
Amazonは購入しようと調べた商品に似た商品を教えてくれます。

私たちが日常的に使っているスマートフォンのアプリは、ユーザーの行動データを蓄積させて分析し、それらをもとにさまざまな提案をしてきます。
こうした提案で「確かにこれ必要だったな」と、自分以上に自分のことを分かっていると感じる瞬間が出てきます。

こうしたユーザーの行動を解析することは便利な反面、選挙の投票行動を操作することもたやすくできるのです。

さらにケンブリッジ・アナリティカは、ユーザーの行動を解析した上で意図的に「フェイクニュース」を流したとも言われています。
適当に流されたフェイクニュースを信じる人はあまりいないかもしれません。
しかし、その人が「信じたい」情報を意図して流したのであれば…たとえ、それがフェイクでも信じる人は出てくるでしょう。

人は自分の信じているストーリーで、物事をとらえがちです。
先入観、偏見と言ってもいいでしょう。

このストーリーに沿ったフェイクを流す。これもユーザー情報があれば可能なのです。

 

私たちにできる対策は?

こうした事件が報じられても、ほとんどの人はスマートフォン・SNS ・Webサービスをやめることができないと思います。

そのため、不正にデータが取られて行動を操作されないよう、注意しながら使い続ける必要があります。

その対策は2つ。

1つは、個人情報を渡す、怪しいアプリをホイホイやらないこと。
こうした診断系はおもしろく、診断結果をシェアしてみんなに知らせたくなるものです。
少し火がつくと、SNSが診断結果一色になり「みんなやっているから大丈夫か」と油断しがちです。
こうした診断を始める前は、ユーザー情報と連動しないか、診断を提供している会社は信頼できるか、注意深く見て行動する必要があります。

今回ケンブリッジ・アナリティカに流用した個人データは、性格診断を行った27万人とその友人のデータ、計5000万人分と言われています。
性格診断を行った人だけでなく、その友人のデータも不正に利用されたのです。

自分だけでなく、友人のデータを守るためにも慎重になる必要があるでしょう。

2つ目の対策は、ユーザーの情報が利用されることを理解した上で流されないよう意識することです。
今回はFacebookが問題になっていますが、前述したように、GoogleもAmazonも、またスマートフォンのソーシャルゲームもユーザーの行動を解析した上で「こうしてください」と指示してきます。
便利である一方、思考を停止させ、ただ従っているとみなさんは「いつの間にか操作されていた」といった状態に。
こうした仕組みを意識して「誘導されているけど、流されないぞ」と思うことが大事です。

 

日本も他人事ではない

今回ケンブリッジ・アナリティカの一連の騒動はイギリス・アメリカを中心とした英語圏でのお話です。

しかしながら同じスマートフォン、SNSを使っている日本も対岸の家事ではなく、同じようなことが起こる可能性もあります。
(むしろ、まだ発覚していないだけで実際リアルタイムで進行している可能性もありますが…)

今回、不正に利用されたのはデータではありません。不正に利用されたのは、ユーザーの思考・行動そのものです。
世界のこれからが決まる大事な選挙の結果が変わったのであれば、「不正に未来が変えられた」と言えるかもしれません。

ピクサーの名作アニメ「ウォーリー(2008年)」では、コンピューターに管理され、肥満化して何もできない人類が描かれていました。
仕事を全てロボットに任せ、楽な方に流された結果、退化した人間が社会風刺として表現されていたのです。

Webサービス・SNSは便利で楽しい反面、楽な方に流されるとウォーリーに出てきた人類のように、主体性のない人間になるのかもしれません。

そのため自分の頭で考え、自分の責任で行動する。それを忘れずに、スマートフォン・インターネットを使う必要があるでしょう。

 

 琉球新報が毎週日曜日に発行している小中学生新聞「りゅうPON!」4月1日付けでも同じテーマを子ども向けに書いています。

 親子でりゅうPON!と琉球新報style、2つ合わせて、ネット・スマホとの付き合い方を考えるきっかけになればうれしいです。

【プロフィル】

 モバイルプリンス / 島袋コウ 沖縄を中心に、ライター・講師・ラジオパーソナリティーとして活動中。特定メーカーにとらわれることなく、スマートフォンやデジタルガジェットを愛用する。親しみやすいキャラクターと分かりやすい説明で、幅広い世代へと情報を伝える。

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