「リープフロッグ現象」ってご存じですか?直訳すると「カエル跳び」。
既存の社会インフラが未整備な新興国において、先進国が歩んだ段階的な発展を飛び越えて、一気に最新技術やサービスが広まることを言います。
例えば、中国やアフリカ諸国でATMは整備されませんでしたが、一気にスマホを用いた電子決済が普及したりすること。既存のサービスとの摩擦がないため、インフラ整備に巨額のコストがかかることなく、また法整備などの時間も短く、まさに社会がカエル跳びで進んでいく現象があるそうです。
つまり、遅れていたことが強みになる。先頭から取り残されたからこそ、一気に最先端になる土壌になる。私は、こういう考え方が大好きです。
◇執筆者プロフィル
小宮 仁至(こみや ひとし) ファンシップ株式会社 代表取締役
広告会社やWEBマーケティング会社を経て、2015年にファンシップ(株)を創業。2016年より「レンアイ型採用メソッド」を提唱し、企業へのセミナーや求職者への採用支援を実施している。
1979年生まれ 熊本県出身。うちな〜婿で2児の父。
私は「人材不足だ」という企業側と、「就職難だ」という求職者側の両方の声を聞く現場で、採用コンサルタントとして働いています。
そんな私が沖縄での持続可能な働き方(それは同時に雇い方でもあります。)を考えた時、「リープフロッグ」する必要があるのではないか?と常日頃感じていました。そしてコロナ禍も、いよいよ待ったなしの状況になった今こそ、働き方のリープフロッグを皆さんと考えていく良い機会なのではないか?と思っています。
沖縄県は、非正規労働者が多く、県民所得も低い。これは言わずと知れた大問題。
これをどうにか「本土並みにしたい」と、諸先輩方が奮闘してこられました。最近では「在任中に県民所得を46位に引き上げる」と掲げた大臣もいらっしゃいました。
ただ、必死に頑張って目指すところが平均とか、最下位脱出とか…。沖縄って、そんなにダメな土地だっけ?と思ってしまうのです。
ここでまさに「沖縄の働き方をリープフロッグ」してみたらどうなるか?と想像を膨らませてみたいのです。
マルチワーカーが集まる島に
では沖縄の特性を活かした、働き方のリープフロッグとは何なのか?ズバリ、
マルチワーカー。新しい働き方の人たちが集まる島を一気に目指す!
だと思うのです。
これって、突拍子もないことでしょうか?
大企業が少なく、製造業も育ちにくい。サービス業・観光業が主要産業である沖縄で、正規労働者の比率を本土並みにしましょう!という掛け声より、よっぽど現実的だと思うんです。
例えば「給料15万円~が限界」という中小零細企業。多いです。
ブラックなわけでも、怠けているわけでもない。ここを踏ん張れば、素晴らしい企業に成長する会社も多く見てきました。もちろん、そうなったら給与は上げていこうと思っている。
だけど今はそうじゃない。
そんな中小零細企業は、出社も時間も拘束しない。リゾートホテルでもビーチでもいいから、どうぞ好きな所で好きな時間に働いて。もろろん、他の会社と仕事してもいいよ。という複業・兼業を前提にした働き方を打ち出したらいかがでしょう?
そうすれば、これまで雇えなかった優秀な人材も参加してくれる。
本当は故郷の沖縄に戻って働きたかったけど、収入減が理由でUターンに踏み切れなかった人材も帰ってきてくれるかもしれません。
メインの収入は本土で稼いで、サブの収入や自分のライフスタイルのために沖縄で働きたいという人だって集まるでしょう。沖縄がどれだけワーケ―ションに向いている場所であるかは、あえてここで詳述する必要もないでしょう。
「働き方」のミスマッチ、クリアしてる?
これまで、私が県外の人材をターゲットに採用プランニングする時、いつもミスマッチを起こしていた原因は、「給与の低さ」でした。ただ実は、問題はそれだけではありません。何なら、「沖縄で働けるなら、現状の3割減の収入になってもかまわない」そう考える人が多いことも事実。
沖縄の企業と働き手のミスマッチは、「給与」よりも「働き方のミスマッチ」に原因があると考えています。
つまり、「安い給料で、週6日、8時間+残業時間を拘束されるのが割に合わない」ということ。
分解すると「給料が安い事」+「週6日、8時間+残業時間拘束される」のいずれかがクリアされれば、沖縄で働きたい!という人たちはいるのです。
もちろん、県や企業も前者・後者いずれも改善に取り組んでいます。私も「いずれか一方だけをクリアすればよい」と言いたいわけではありません。
ただ問題を分解し、弱みが強みに変わり、より即効性と実現性がある打ち手は何か?
沖縄という魅力を最大限に活かして、働き方をリープフロッグさせる場合に、必ずしも非正規雇用の正規化ばかりにこだわらなくてもいいのではないか?と考えています。
”正規化“にこだわらなくていい理由
私がこのように考えてしまうのは、2020年以降、特に「働く人の意識の変化」を如実に感じているからです。一気に普及したオンラインミーティングを使って、2020年9月~12月までの間に、沖縄県内に在住の会社員・経営者・転職希望者・独立予定者等、様々な人への聞き取り調査を50名以上、各1時間以上をかけて行いました。
そこで見えてきたことは、まさに「働き方の多様性」を求める人たちが増えてきたという事実です。
これまでの日本型雇用…つまり、新卒で安定した企業に正社員として就職し、終身雇用で勤めあげて、定年を迎える。という働き方が実はそんなに求められていないのではないか?と感じざるを得ないのです。
この新卒採用・正規雇用・終身雇用って何かに似ていませんか?
そう、「結婚」にそっくりなのです。
生涯たった1人を愛し、子どもを作って、夫婦最後まで添い遂げる…。もちろん、多くの人がそれを望むことも理解します。むしろこれを否定・批判することはとっても勇気がいることですが、あえて言わせていただきます。
結婚だけが幸せでしたっけ?
生涯、独身(フリーランスや非正規雇用)でいることは不幸なのでしょうか?
実質は婚姻関係にあったとしても当事者同士が「いつまでも恋人のような緊張感を持とう」と話し合い、籍を入れない2人はそんなに珍しいことではないはずです。
そもそも雇用契約とは、結婚のように生涯を誓い合うものばかりだったでしょうか?
むしろ恋愛のようにいずれは別れがあることも想定して、それでも「お互いできるだけ長くお付き合いしたいね」という約束の方が健全かも…。
そう思いませんか?
どんな大企業であっても「未来は安泰だ」と言うことが困難な時代になりました。そんな時に、「一生キミを守ります」という建前が崩れていることは多くの人が感じています。ただそれに不平不満を言うだけでなく、自ら自分の道を切り拓こうと動き出している人を私は応援せずにはいられません。
ちなみに以下は、私が2020年以降に実際沖縄に在住している方からヒヤリングした実例の一部です。
- 販売員を辞め、デザイナーとして独立するために基本的な仕事流れを知りたくて、デザイナーが3人以上所属する会社に入りたい人
- 資格を取るには実務経験を積んだ方が早いからと、業界に入ってみたが3年後には県外に移住することを決めている人。
- Uターンしたばかりで今後起業を考えているが、地元にほとんど知り合いがいないため人脈つくりを兼ねて、一旦地元企業に就職する人。
いずれも「結婚≒正規雇用で終身雇用」を望んでいるわけではないのです。
ただ沖縄に限らず日本は建前を重んじる国です。雇う側も雇われる側も、
「一生、あなただけ だということ誓います」
という約束を強いられる慣習があります。そのこと自体が悪いわけでありません。
ですが、そうじゃない人もいる、そうじゃない人も増えてきている、ということを知ってほしいのです。
「みんな結婚=(正規雇用で終身雇用)を望んでいる。それ以外はみんな不幸なんだ」
なんて、公言している人って、さすがに何らかのハラスメントですよね。
働き方って、もっと多様化していると思うんです。
遠距離恋愛って、つまりテレワークと似ています。
単身赴任で週末だけ会う家族って、珍しくないですよね。会社の近くに部屋借りて、家族が住む家は別にある。つまり副業・Wワーク・2拠点での働き方(暮らし方)なんて日本人はとっくの昔からやっていました。
独身の状態で、2人3人と同時にお付き合いしてみる。つまり2社3社に所属してマルチワーカーとして働くことって、本人と相手がそれでいいと選択しているわけですから、周囲がとやかく言うのって…野暮ですよね?
尖ったアプローチも必要!
沖縄の非正規労働者の多さ・県民所得の低さは、私も微力ながらどうにかして解決していきたい課題です。
ただその解決をするアプローチの1つとして、劣っていること、苦手なことを一歩ずつ着実に積み上げることも必要でしょう。ただ、劣っていることも、苦手なこともある種の個性と捉え、その個性を使ってリープフロッグする。そういうアプローチにもう少しリソースを割いてもいいのではないでしょうか。
働き方をもっと自由に。雇い方をもっとわがままに。沖縄に暮らす私たちで、沖縄らしい持続可能な働き方を一緒に創っていきましょう!
執筆者プロフィル 小宮 仁至(こみや・ひとし)
ファンシップ株式会社 代表取締役
「レンアイ型採用メソッド」「レンアイ型就転職コンサルタント」として、商工会議所など公的機関でのセミナーを随時開催し、2016年以降1000社以上が受講。就・転職者向けセミナーや個別相談300件以上、中小零細企業向けの採用コンサルティングでは個別相談企業300件以上、契約企業で6カ月以内の採用成功率は87%。沖縄県商工会議所連合会エキスパートバンク登録専門家、沖縄県産業振興公社登録専門家。1979年生まれ 熊本県出身 2002年より沖縄移住。