今や夏の風物詩となった「かりゆしウエア」。本格的な夏の到来を前に、県内各地の取扱店ではさまざまなデザインの商品が並ぶ。多くの人がかりゆしウエアを着るようになり、個性的なデザインや、他の人とは違う変わった商品を求める人も少なくない。そうした声に応え、作り手側は「一歩先のかりゆしウエア」を作るため、さまざまな工夫を凝らしている。
■「かぶり」を回避
沖縄らしい色や柄のデザインで、県内で縫製されていることがかりゆしウエアの定義。2000年に開催された沖縄サミットをきっかけに急速に普及し、定着してしばらくすると「同じデザインを着ている人が多い」という意見が出始めた。「営業先企業の制服が自分と同じかりゆしウエアだった」「目上の人が自分と同じかりゆしウエアで気まずい思いをした」などのケースは、沖縄ビジネスシーンの「あるある」になっている。
「他の人と『かぶる』から、かりゆしウエアをデザインしてほしいと知人に頼まれて作り始めた」と語るのは「ラフィール・ココ」デザイナーの比嘉弥生さん。比嘉さんのデザインは大胆な植物柄や鮮やかな色合いが特徴的で、1点につき30着のみ生産している。少数商品ということもあり、「新作を入荷したらすぐに連絡してほしい」と取扱店舗に頼む客もいるという。
比嘉さんは「柄、形、素材にこだわりながら、伝統工芸なども取り入れた新たなデザインを生み出していきたい」と抱負を語った。
■ターゲットを絞る
日進商会のかりゆしウエアブランド「MAJUN(マジュン)」は、年代や着用するシーンに合わせて購買層を絞り、複数のレーベルで販売を展開している。幅広い世代に対応したスリムタイプの「オーシャン・ブルー」、高齢層向けのゆったりした型の「リーフ・グリーン」など、同ブランド内でデザインに多様性を持たせて差別化を図っている。
カジュアル事業部の中野勝課長は「かりゆしウエア市場は数年前から『飽和状態』と言われている。修練して商品開発しなければならない」と話す。クールビズが当たり前になり、着用期間が長期化する傾向にあることを指摘しながら、「消費者の目は肥えているので、飽きない工夫が必要だ」と語った。今後は近年高まっているレディース需要への対応や、県外ひいては海外への販路拡大にも力を入れていくという。
■面白い沖縄を表現
一見するとかりゆしウエアに見えない、良い意味で「かりゆしらしくない」かりゆしウエアを販売している北谷町の「STARTEX(スターテックス)」。もともとカジュアルウエアのデザインを手掛けていた玉木真次郎代表は、その感覚をかりゆしウエアに反映させ、「ビジネスシーンでの着用は大前提だが、洋服としても普通に着ることができることを意識している」。1シーズンで作る数は約800枚で、購入する人のほとんどがリピーターだという。
紅型の柄やヤンバルクイナをモチーフにした刺しゅうのワンポイント、違った柄をあしらっておしゃれと実用性を兼ね備えた胸のダブルポケットなど、細かな部分でも遊び心を演出するデザインが人気の要因の一つだ。「少量で作っているのがうちの売り。今後も『面白い沖縄』を表現するかりゆしウエアを作り続けたい」とほほ笑んだ。
文・真栄城潤一 写真・諸見里真利
◆付加価値がカギ 伊良波勲さん(県衣類縫製品工業組合事務局長)
かりゆしウエアは官公庁や大手企業の制服などに用いられている。PR活動やクールビズなども相まって広く流通するようになった。最近では「人と違うものを着たい」「かっこいいものが欲しい」と考える人も多くなり売り手側も安い製品を大量生産する傾向はなくなりつつある。
昨今のかりゆしウエアの特徴はどう付加価値を付けるかにある。販売店舗やデザイナーは素材やデザイン、見せ方にこだわりを持ち、多品種でハイグレードな製品を作ろうと取り組んでいる。伝統性を打ち出したり、色彩や柄を特徴付けたりするなど、テーマを持った商品開発が進められている。
2015年の総生産枚数が6年ぶりに減少に転じたのはこうした背景がある。ファッション性を重視する傾向が続くだろう。背広をはおれるかりゆしウエアも開発されている。消費者の細かなニーズに合わせた商品開発や宣伝が求められるだろう。
(2016年5月17日付 琉球新報掲載)