好きな日、好きな時間に休暇が取れる「無制限有給休暇」。米国人のマット・スチュワートさん(33)が勤務する世界最大手IT企業は昨年、この休暇制度を導入した。私はこの話を聞いたとき「無制限で休めるなら、年がら年中出勤しなくてもいいの?」と驚いた。日本では有給休暇があっても、周囲に迷惑をかけるのではないかといった遠慮や休暇を取ることへの罪悪感を感じる雰囲気があり、日本企業の社員である私にとっても衝撃だった。
私は昨年9月から会社を1年間休職し、米ポートランドの大学へ留学している。10年前、琉球大学に留学していた時にマットと知り合い、現在は同居人として彼の家に恋人のクリスティン・モリスさん(33)と3人で暮らしている。
マットは毎朝8時に家を出て、午後5時すぎには帰宅する。出勤時間は柔軟で、最低8時間働けば、いつ出勤してもいいという。帰宅後の暮らしぶりも多彩で、火曜は友人や彼女と外食、水・金曜の夜は友人とボウリング、隔週金曜には友人たちがマット宅に集まりビデオゲームを楽しむといった具合だ。まさに日本で提唱されている「ワーク・ライフ・バランス」を実践しているような人だ。留学前、残業が当然だった私と比べると雲泥の差だ。
なぜ残業がないのか。マットいわく、「仕事中は、例えば昼寝とか仕事以外のことをしない。仕事に対する集中力は常に全開だ」。世界で最も影響力を持つ他のIT企業では居眠りしたり、駐車場で仮眠を取ったりすると首になるという話もあるらしい…。これを聞いて私は、疲れた様子でソファにもたれかかっていた同僚がいたことを思い出した。
マットは「同じ時間で働いていても、日本人が生み出す経済効果は米国人と比べて低く、非効率だと感じる」とぴしゃり。そして「日本人は上司が帰らないと仕事が終わっていても帰れないと聞く。あり得ない」と続けた。では、マットは年間何日の有給休暇を消化しているのか? その答えは意外にも「ほとんどない」だ。専門職の仕事を代わりにできる同僚がいないのに加え「有給休暇を取る人は『怠ける人』というイメージがつく」という。有給休暇があっても使えない現状は日本と同じようにある。ただ、米国人の方が時間の活用が上手と感じた。
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「全米で一番住みたい街」といわれるオレゴン州ポートランド。各種施設や住宅が集中したコンパクトシティーであること、公共交通機関の充実やユニークな個性を尊重する空気などが理由だ。ポートランドの人々の価値観からウチナーンチュが学ぶものもあるはず。留学中の記者が日々の暮らしで気になったことを報告する。(随時掲載)
プロフィル
呉俐君(ウ・リジュン) 1983年、台湾・高雄市出身。2012年に琉球大学で社会学博士学位を取得し、同年琉球新報社へ入社。経済部記者などを経て、昨年9月より社内留学制度を活用して米オレゴン州のポートランド州立大学で英語を学んでいる。