性別を問わず、誰でも使える「オールジェンダー(全ての性別)トイレ」。私が通う米ポートランド州立大学では、2015年にこのトイレを導入した。
個室で中に手洗い場がついているタイプ、複数の個室があり手洗い場は共通タイプのそれぞれを整備した。16年春に全44個のトイレのうち29個を「オールジェンダートイレ」に変更したのをきっかけにほとんどの建物で設置が進んだ。日本ではまだ聞き慣れない「オールジェンダートイレ」。トイレ問題に悩む性的少数者だけでなく、子連れや体の不自由な人など「誰でも」使えるのがポイントだ。
同大学に通うキャメロン・ロンバルド(27)はゲイで「世の中にはいろんな人がいる。男女に限定せず、性別を問わない『ジェンダーニュートラル』の考え方も必要だ」とオールジェンダートイレの導入に賛同する一人だ。16年まで6年間、日本で留学や就職を経験しており、その際に男性を好きだというだけで差別を受けたことがあるという。例えば、日本人の友人女性に自分がゲイだと明かすと、「あなたは女性用の服も着るの?」と聞かれたり、海外から来た恋人と東京で賃貸物件を探したときには家主に断られたりするなど、さまざまな偏見の目にさらされたという。
さらにキャメロンは日本での就職活動で初めて面接を受けた際に「あなたは日本人の女性が好きですか」と質問されたといい、「とても不愉快だった。でも仕事がほしかったので“彼女”は外国人と答えた」と振り返る。キャメロンによれば、全米では求職者に対して交際状況などに関する質問をするのは禁止されているという。
キャメロンは、恋愛の指向や家族の多様性の理解を目的に作成された本「あなたはあなた」を日本語に翻訳した。いまだに「男性用」「女性用」と性別で分けたトイレが主流で、求職者の交際状況などを平気で聞く日本では、性の多様性などに対する理解がまだまだ不十分で、努力するべきところが多い。「みんなが自分らしく生きていける社会が最も望ましい社会だ」というキャメロンの言葉、みなさんはどう受け止めますか?
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「全米で一番住みたい街」といわれるオレゴン州ポートランド。各種施設や住宅が集中したコンパクトシティーであること、公共交通機関の充実やユニークな個性を尊重する空気などが理由だ。ポートランドの人々の価値観からウチナーンチュが学ぶものもあるはず。留学中の記者が日々の暮らしで気になったことを報告する。(随時掲載)
プロフィル
呉俐君(ウ・リジュン) 1983年、台湾・高雄市出身。2012年に琉球大学で社会学博士学位を取得し、同年琉球新報社へ入社。経済部記者などを経て、昨年9月より社内留学制度を活用して米オレゴン州のポートランド州立大学で英語を学んでいる。