「人材が定着しないんです。人手不足にも関わらず、社員も辞めていく・・・市場のニーズはあるのに、それを回す人手が足りないんです。どうしたらいいんでしょうか。」
そんな悲痛なご相談が増えています。
人々が働く現場でいったい何が起こっているのでしょうか。
◇執筆者プロフィル
波上こずみ(なみのうえ・こずみ) コズミックコンサルティング代表
子育て・介護と仕事との両立に苦しんだ経験を踏まえ、2016年に起業。「働く人のモチベーションを組織の活力へ!」をテーマに、沖縄の企業や個人を対象としたコンサルティングを手掛けている。1976年、那覇市首里生まれ。1男1女の2児の育児中。
バブル崩壊後、企業はコストを抑えようと限られた人員で売上げや利益を増やすかに注力していました。まさに社員は数字を上げるために働く組織の歯車的存在。それでもまだ労働力は有り余っていたので、社員が離職しても代わりの人材がすぐに獲得できる、そんな時代が続いていました。
ところが近年、企業のサービスや商品にニーズはあるのに働き手がいない・・・という事態が生じています。景気は回復傾向で商機はあるのに人手不足のために事業が継続できず、倒産に追い込まれることさえあるのです。
特に沖縄においては昨今、どの業界でも人手不足が課題で募集しても応募すらない中、社員は次々と辞めていく・・・。
組織コンサルタントとして、人材定着や人材育成、組織活性化というテーマで数々の企業にコンサルティングをしている中でも、こうした悲痛な現場の状況が伺えます。
あらゆるデータを見ても、少子高齢化により働き手はますます減少していくのは明らかです。しかし、企業によっては人手不足の危機に直面した現在でも、既存の枠組みのまま、何の変革も起こさず、業務改善にさえ取り組んでいない所が少なくないことに驚きを感じています。
※我が国の高齢化の推移と将来推計(総務省HPより)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h26/html/nc141210.html
(出典)2010年までは国勢調査、2013年は人口推計12月1日確定値、2015年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果
実際、コンサルティングに伺った企業の中には
- もう何年も、採用した人数より退職する社員の方が多い
- 入社3年以内の社員がほとんど定着していない
- 離職率が年々増加して現場で人手が足りず、既存の職員が疲弊しきってメンタル不調者が相次いでいる・・・
など、深刻な状況に陥っているケースもあります。
コンサルティングを通して「組織」と「働く人」の関係性や構造を分析し、改善のための提案を行う中で、離職率が高い企業には幾つかの共通した傾向があることが分かりました。
今回はその中でも「社内コミュニケーション」という切り口から、その傾向についてご紹介したいと思います。
社内コミュニケーション取れてる?
従来、企業の意思決定は、上記の図の流れで行われてきました。
社長 → 経営陣 → 次長等 → 部長 → 課長 → リーダー → 一般社員
つまり、トップダウンで事業の方向性や施策を社内に浸透させていました。
そして実際に事業が動き出すと、その進捗状況についてはボトムから順に、
一般社員 → リーダー → 課長 → 部長 → 次長等 → 経営陣 → 社長
というように、一つずつ階層から登って報告をするという流れになっていました。
沖縄の中小企業においては、そこまで役職が細分化されてなくとも、事業の決定事項については トップ→ボトムへ、業務の進捗報告についてはボトム → トップへ という流れは共通しているかと思います。
このやり方は「管理」しやすい組織を作るためには効果的でした。管理職は自分の部署の事業がうまく回っていることが大事で、その他の部署への関与をあまり良しとしないのが従来の組織の形でした。
そうなると何が起こるか。
極端にいうと、自分の部署だけうまく回っていればいい、自分のチームだけ成績がよければいい、という人材が育ってしまいます。コミュニケーションの方向が直属の上司部下間で縦方向のみという偏りが出てきてしまうのです。
変化の激しい今の時代、こうした縦方向のコミュニケーションだけでは、顧客ニーズに応えられなくなり、しまいには淘汰されかねません。
今日売れているものが、明日売れなくなってしまってもおかしくない時代だからこそ、さまざまな情報や多様な意見を速やかに共有し、臨機応変に意思決定できる仕組みが必要なのです。
「タテ・ヨコ・ナナメ」のコミュニケーションが鍵
これからの社内コミュニケーションは、上下の縦方向(直属の上司部下間)のみならず、横方向(階層ごとやチームごと)や、斜め(隣の部署の上司・先輩と部下)など、「タテ・ヨコ・ナナメのコミュニケーション」が肝になります。これを私は「マルチコミュニケーション」と呼んでいます。
加えて、こうした社内間のコミュニケーションを個々人の社員に委ねるのではなく、組織として積極的に仕掛けていくことが大事です。
顧客から一つのリクエストがあったら、部署をまたいで多様な提案ができたり、今までクライアントと想定していなかったマーケットを取り込むために、横断的なプロジェクトチームを立ち上げて、役職立場を越えて斬新なアイディアを出し合ったりするなど、社内コミュニケーションが多角的に実現できていることが企業の成長につながるのです。
「タテ・ヨコ・ナナメのコミュニケーション」が日頃から実践できている企業はフットワークが軽く、社員間の信頼関係が築きやすいため、人材が孤独になりにくく、一人一人が成長を実感できる組織になり得るのです。
こうした組織では、新しい人材が入ってきてもコミュニケーションが活発で、一人一人が成長できる環境が整っているため、人材の定着にもつながります。
マルチコミュニケーションを促すために、沖縄の「ゆんたく文化」をうまく活用してもいいかもしれません。例えば、お昼休憩とは別に「ゆんたくタイム」を業務時間内に設けるなどの仕掛けも有効かもしれません。
ポイントまとめ
「タテ・ヨコ・ナナメ」のマルチコミュニケーションを大切にすることは、人材流出を防ぐ手だてとなります。人材不足の今こそ、既存の構造や業務のあり方について「今のままでいいのか」という問いを組織内に投げかけて、積極的に見直してみましょう。
「縦・横・ナナメでコミュニケーション取れてる?」
「一方通行のコミュニケーションになってない?」
コミュニケーション方法の改善や変革にどれだけ重きを置き、かつ時間を確保してみんなで真剣に向き合えるか、それが人材定着の鍵になるのです。
執筆者プロフィル 波上こずみ(なみのうえ・こずみ)コズミックコンサルティング代表
1976年 那覇市首里生まれ。沖縄県立首里高校、東京経済大学卒業後、2001年JTBワールド(東京)に入社。04年に帰沖し沖縄観光コンベンションビューローに入職。05年に結婚、08年に長男、11年に長女を出産。復職後、同ビューロー初の組織内人事担当者として、人材育成プログラムを構築、講師を務めた。父親の介護問題にも直面し16年に退職。自身の経験を生かし同年4月、組織コンサルタントとして起業した。
波上こずみ公式HP http://kozumi-naminoue.com/