<金口木舌>文化へのまなざし


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 「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要だ」。ドイツのモニカ・グリュッタース文化相の発言だ。新型コロナウイルスに関連し、欧州の支援策は芸術家やフリーランスで働く人にも手厚い

▼安倍晋三首相は、シンガー・ソングライターの星野源さんが「うちで踊ろう」を歌う隣の画面で、愛犬とじゃれ合い、くつろぐ動画をツイッターに投稿し、批判を浴びた。外出自粛を呼び掛ける趣旨だった
▼星野さんは、首相から動画の使用について事前に連絡がなかったことを明らかにした。星野さんの動画は「誰か、この動画に楽器の伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな?」と呼び掛け、多くの人が呼応していた
▼自粛中にできることを模索し、活躍の機会を失った音楽家がSNSを介し助け合う動きでもあった。だが首相は伴奏もダンスも付けず、動画を政治的メッセージに利用した。作者の意向を無視した作品の二次利用は悪質と言える
▼音楽家団体「セイブ・ザ・リトルサウンズ」の調査で、ライブハウスなどを運営する34都道府県の計283事業者のうち自粛要請により約95%が減収になったと回答した。89%が減収分の補償を国や自治体に求めた
▼文化の担い手は補償のめども立たないまま自粛を迫られた。そのことに対する指導者のまなざしは、欧州と果てしない温度差がある。