「天才=親が我が子に抱く妄想」「充実=人生の空しさを忘れている瞬間」「美=見る者がいないと存在しないもの」-。読めば読むほど笑いが漏れる。筒井康隆さんの「現代語裏辞典」に掲載されている用語解説だ
▼ユーモアと駄じゃれに満ちあふれた「ア行」から「ワ行」までの約1万2千語は、あまりにもくだらなく、かつ本質を突いている。「辞典」の項目では「唾棄(だき)すべき常識の巣窟。本辞典のみはさにあらず」と皮肉る
▼辞典には「国家=無形の束縛」とある。特定秘密保護法やマイナンバー制度を思い出した。日ごろ監視されているという意識は薄いが、法の趣旨を考えると目に見えない束縛感を感じる
▼東村と国頭村に広がる米軍北部訓練場のヘリパッド建設で、政府は「有形の束縛」を推し進めている。わずか人口約140人の高江の集落に、全国から機動隊員ら警察官400人余を配置し、建設に反対する住民らの排除に乗り出した
▼検問の実施、生活道路である県道の一部封鎖、早朝に不意打ちの工事関係車両の進入…。辺野古新基地に関しては、再び政府が裁判に持ち込んだ
▼「平和=戦争の準備をする期間」と辞典にはある。ブラックユーモアで書かれたはずの筒井さんの洞察が、現実化している現状を憂う。さらに「正義」とは「結果的に勝った方」。勝ち負けでない正義を多くの人に問いたい。