今年の沖縄全戦没者追悼式は戦没者への哀悼だけでなく、4月の米軍属女性暴行殺人事件に象徴される沖縄の過重な基地負担に焦点が当たった。県民大会が開かれるほどの県民の反発の高まりを受け、安倍晋三首相も事件や沖縄の基地負担に言及せざるを得なかった。登壇者のあいさつで沖縄側からは日米地位協定の抜本的見直しや米海兵隊の削減などこれまでにない強い要望が上がった。一方、安倍首相からは沖縄の要望に正面から応える言葉はなく、事件に対する沖縄と政府の切実さの差が浮き彫りになった。
4年連続で式辞を述べた喜納昌春県議会議長は米軍属女性暴行殺人事件を挙げて「県民の尊厳・人権問題に関する米軍基地関係の意見書・決議は今日までに511件も議決している」と言及した。その上で建白書で掲げた普天間飛行場の閉鎖・撤去、県内移設の断念を求めた。
◇支持団体も拒否
自民党の支持団体として位置付けられる県遺族連合会の宮城篤正会長は「追悼のことば」でこう語った。「沖縄にはいまだ広大な米軍基地があり、米軍普天間飛行場の早急なる移設を熱望すると同時に戦争につながる新たな基地建設には遺族として断固反対する」。安倍政権が掲げ続ける「辺野古移設が唯一の解決策」を事実上拒否する言葉が支持団体から発せられた。
戦後70年の節目だった昨年の追悼式で、翁長知事は平和宣言で辺野古移設問題に触れ「到底許容できるものではない」と強いメッセージを盛り込んだ。
今年は辺野古移設拒否の表明に加え、米軍属の事件に触れて「日米地位協定の抜本的な見直しとともに海兵隊の削減を含む米軍基地の整理縮小を直ちに実現するよう強く求める」とさらに踏み込んだ。
県幹部は「県内全市町村が抗議決議を可決し、県民大会もあれだけ多くの人が来た。基地があるが故の事件だ。県民の怒りを伝えないといけない」と事件に触れた上で地位協定改定を要求するのは当然だとの見方を示す。
翁長知事は式終了後、記者団に「み霊の前で沖縄が置かれている環境を報告し、安倍首相に訴えさせてもらった」と平和宣言に込めた思いを語った。
◇冷めた視線
翁長知事が平和宣言を読み上げている間、知事の方にほとんど目を向けることのなかった安倍首相。あいさつに立ち、「私たちは今後とも国を挙げて基地負担の軽減に一つ一つ取り組んでいく」と表明した。その後、高らかに掲げられたのが「(日米)地位協定上の軍属の扱いを見直すことで合意し、現在、米国と詰めの交渉を行って」いることだった。
県幹部は合意内容について「(軍属の範囲見直しは)地位協定の運用改善とさえ言えない」と冷めた視線を送る。
「全ての米軍関係者に特権が存在する状況に問題がある。県が求めるのは地位協定の抜本改定だ」と強調する。
式後、安倍首相は合意について改めて触れ「県民の皆さんの気持ちに寄り添いながら成果を上げていきたい」と語った。しかし、安倍首相はあいさつの中で喜納議長と宮城会長、翁長知事の3人がそろって断念を求めた「辺野古移設」に言及することは最後までなかった。
(当銘寿夫、島袋良太)