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国家統合の危機 追い込まれている政府<佐藤優のウチナー評論>


国家統合の危機 追い込まれている政府<佐藤優のウチナー評論> 佐藤優氏
この記事を書いた人 Avatar photo 與那嶺 松一郎

 名護市辺野古の新基地建設に関連した軟弱地盤改良工事に伴う沖縄防衛局の設計変更申請を県が不承認とした処分を巡り、国土交通相が県へ承認するよう「是正の指示」を出したことの違法性が争われた訴訟の判決で、日本の最高裁判所第1小法廷(岡正晶裁判長)は4日午後、県の上告を棄却した。裁判官5人の全員一致による結論だそうだ。日本の司法がそのような判断をしたことに対する筆者の感想は「あっ、そうですか」という以上でも以下でもない。

 日本に連邦制が導入され、主権を持った琉球(沖縄)共和国ができれば、そこにわれわれの最高裁判所ができる。その日を待ち望みながら、この不愉快な現状に対しては、我慢するしかない。小説家で沖縄史に大きな足跡を残した故大城立裕先生は筆者に対して「ヤマトやヤマトゥンチュと付き合うことは、常に我慢が伴う。我慢し、耐えるが、決して諦めてはいけない」と繰り返し述べていた。大城先生の言葉を忘れずに筆者も東京に住む日本系沖縄人として作家活動を続けていきたいと思う。

 5日、「朝日新聞」は社説で<不承認に対しては、事業主体の防衛省沖縄防衛局が「私人」の立場で不服を申し立て、「身内」にあたる国交相が審査庁として判断。県の処分を取り消す裁決を出した。だが裁決後も県が承認せず、国交相が是正指示した。政府内部での審査のキャッチボールには、「国による私人なりすまし」「権利救済制度の濫用だ」と多くの行政法学者が批判の声明文を出している。/法の趣旨の逸脱になぜ明確に釘を刺さないのか。過去の関連訴訟でも最高裁は入り口論で再三、訴えを退けた。政府から離れた視点で行政をただし、独立した司法の存在を示すべきなのに残念だ>と指摘した。その通りと思う。

 もっとも東京の中央政府は「日本国家が私人になりすます」という禁じ手まで用いないと、国内植民地である沖縄をつなぎ留めることができないという危機的状況に追い込まれている現実が露呈した。

 県が沖縄防衛局の設計変更申請を承認しなくてはならない具体的な期日の指定はない。玉城デニー知事は、この事情も踏まえて、沖縄の民意を反映した対応を、腹をくくって行えばよい。今後、国による代執行が行われると大混乱になると心配する人もいるが、より混乱するのは東京の中央政府だ。中央政府によるむき出しの暴力を目の当たりにすれば、沖縄人は自らのアイデンティティーを一層強めることになる。

 どうも東京の政治エリート(閣僚、国会議員、官僚)には、本件の危機の本質が見えていないようだ。一寸の虫にも五分の魂がある。中央政府が沖縄人の意思を露骨に無視し、力で新基地を押しつけようとすると、沖縄人は「果たしてこういう人たち(日本人)と今後、一緒に生きていくことができるのだろうか」という根源的疑念を持つようになる。このことが日本国家の統合に危機をもたらす。

 東京の政治エリートは自らの首を絞めるような選択を無意識のうちに行っている。無意識だから、それを矯正することは難しい。いま重要なのは、日本国家の理不尽な姿勢に対して、沖縄人の団結を強化することと筆者は考える。

 (作家・元外務省主任分析官)