<金口木舌>そばをすする音のおいしさ


社会
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 落語にそばを食べるシーンはつきもの。タイトルに出てくる話としても「時そば」や「そば清」「そばの殿様」などが思い浮かぶ。主題でなくてもそばは落語の重要なアイテムだ

▼そのそばを食べるしぐさが何ともいい。扇子1本をはしに見立て、そばをすする。本当に食べているように見えてくる。「ふぅふぅ」と冷まして「ずずずっ」とそばをたぐる。音で想像させるのも職人芸だ
▼麺を食べるときに音を立てるのは東洋の専売特許だろうか。西洋では食事中に音を出すのはマナー違反と固く禁じられる。ナイフやフォークによる耳障りな音はもちろん、口を開けて物を食べるそしゃく音もNGで、恥ずかしながらよく注意された
▼麺をすする音は外国人に不快感を与えるため慎むべきだというヌードル・ハラスメントなるものが話題になり、賛否両論巻き起こった。その後、外国人観光客が増えても問題になった話は聞かない
▼それどころかラーメン店には外国人観光客が列をなしている。欧米人だと麺をすするのは難しいだろう。作家の椎名誠さんがすすらずに食べる実験をしたら「うまさは半減以下だった」と書いていた
▼沖縄そばを欧米人が音を立ててすする日が来るかもしれない。沖縄そば屋の「御殿山」が来年、台湾と英国に出店を計画する。今日は沖縄そばの日。新たな可能性に期待し、またそばをすすろう。