平安時代に謀(はか)られ失脚し、怨霊となって京の都を震え上がらせたといわれるのは菅原道真。これより少し前の政変に応天門の変があった。時の高官である大納言が皇居の門に付け火した
▼スキャンダルは口の端に上る。ライバルの仕業にして蹴落とすための犯行だったと語られるようになった。この口承を基に事件から約300年後の12世紀、「伴大納言絵巻」が描かれる
▼生き生きとした描写で約450人いる登場人物に同じ表情はない。同一人物の異なった場面を描く異時同図法を用いた。「現代の映画に通ずる画期的演出法」(黒田泰三著「思いがけない日本美術史」)と評される
▼後に国宝となる絵巻の制作意図は明らかではない。真犯人は別だとのメッセージが込められたとも考えられるそうだ。特別な思いで高名な絵師に託し、政変を後世に伝えようとしたのだろう
▼時は移って動画まで個人で撮れる現代だ。画像を集めバーチャルリアリティーの技術で首里城をデジタル上に復元する取り組みが始まり、海外からも素材の提供が相次ぐ。本紙連載「首里城と共に」にも寄せられる思い出の詰まった一葉一葉だ
▼実際の再建は歴史を解きほぐし、資料をひもとき進められる。海を越えて広がる支援の輪がこれを支える。山あり谷ありであろうが、長く語り継がれる再建の物語はプロローグに居合わせた私たちが紡ぐ。