<金口木舌>聖火ランナーの始まり


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 1930年代の欧州では独裁者たちが権力の座に就く。33年、ドイツではナチスのヒトラーが政権を握り、国際連盟を脱退した。優生思想を前面に打ち出し、ユダヤ人や障がい者などを差別した

▼夏季オリンピック・ベルリン大会は36年。ヒトラーは大会組織委員会総裁となり、10万人規模のスタジアムを建設させた。聖火ランナーはこの大会から始まり、ギリシャからの3075キロをつないだ
▼オリンピックの歩みは政治、ナショナリズムに左右されてきた。ヒトラーはユダヤ人の参加を拒もうともくろんだが、国際社会の批判を招いた。その時はおとなしくしていたが、後にユダヤ人や障がい者への大虐殺を実行した
▼東京オリンピックの聖火ランナーが発表された。沖縄県内を走るランナーには県出身の芸能人やアスリートのほか、名護市の国立ハンセン病療養所沖縄愛楽園の自治会長、金城雅春さん(65)も名を連ねた
▼26歳で入所し、園内の自治拡大のため闘った。「差別を繰り返させない」との思いで、ハンセン病違憲国賠訴訟の原告として差別政策を進めた国の責任を追及した
▼来年、全国でもハンセン病回復者が聖火ランナーとして走る。「元患者でも参加していいんだとの認識が、半歩でも一歩でも進んでほしい」。暗い時代を経て、聖火は希望への道を照らす。来年5月、金城さんは車いすに乗って臨む。