<金口木舌>人間は生きなければならない


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 〈人間は奇蹟(きせき)そのもの。だから人間は生きなければなりません〉。故・井上ひさしさんは戯曲「きらめく星座」で、戦争ゆえに、身ごもった子の暗い未来を悲観する娘に「生」の意義を説いた

▼先週、東京で公演を見た。新型コロナウイルスの感染拡大でイベント自粛が全国で続く中、こまつ座は当初開幕の5日から4日間は休演したが、15日までの6日間は上演を続けた
▼全国公立文化施設協会が15日まで実施した調査によると、全国の公立の文化施設による自主事業のうち9割が中止や縮小、延期を決断した。貸館も9割がキャンセルしたという。継続したこまつ座の判断は希少だろう
▼演劇に限らずイベントは多数の関係者が関わって作り上げる。舞台は観客なしでは成立しない。このときにできないと2度と同じ舞台はできないかもしれない。公演するのも、やめるのも「苦渋の決断」だろう
▼政府の自粛要請に公演継続を訴えた演出家の野田秀樹さんは、劇場閉鎖は「演劇の死」を意味しかねないと述べ「いかなる困難な時期であっても、劇場は継続されねばなりません」と宣言した。演出家の平田オリザさんも同調したが、賛否両論ある
▼政府は19日の専門家会議を踏まえ、自粛継続の是非を判断する。感染拡大リスクへの対策を取りつつ、前に進んでいくために何をすべきか。井上さんならどう答えるだろうか。