<金口木舌>いつか見た光景


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 デジャビュ(既視感)のある光景だ。新型コロナウイルス感染症対策で外出自粛要請が出ると、東京都内のスーパーに食料を求める人が列をなし、カップラーメンや乳製品が棚から消えた

▼9年前のあの時も東京にいた。東日本大震災発生直後は多くの人が帰宅できず、コンビニから食料がなくなった。東京電力福島第1原発事故で目に見えない放射能への恐怖が人々を包んだ。あの時と今と空気が何だか似ている
▼現在も、見えないウイルスとの闘いのただ中で、終わりが見えない。トイレットペーパーの在庫はあると繰り返しているのに、不安のせいか人々はさらに買いだめし品切れが続いている
▼外出自粛要請で花見も規制された。東京・上野恩賜公園では密集を避けようと通りが封鎖され、誰もいない中で満開の桜が寂しく咲いていた。福島の帰還困難地域で無人の中に続く桜並木の絵とも重なる
▼政府が都市封鎖実施を緊急発表するという情報がSNSで拡散し、安倍晋三首相が否定するニュースが流れる。世界中で根拠不明の情報が飛び交う。これも大震災後と変わらない。われわれは何を学んできたのだろうか
▼予見できないからこそ人は不安になる。そうであれば、あえて明るい未来を思い描いてみよう。根拠がなくても信じて行動した結果、予言通りになる「予言の自己実現」を、いい意味で期待しつつ。