<金口木舌>疎開の理由


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 取材で力を注ぐのは証言や資料を集めること。リーダーの行動、考え方、決断の根拠を確認するのは、対応が適切だったかどうかを検証するために特に重要だ

▼沖縄戦当時の島田叡知事。警察部長官舎で働いていた具志よし子さんは、県庁・警察部壕を離れる際に島田知事からタオルをもらった。「もしもけがをしたら、これで血を止めなさい。生きなさい」。部下を大切にしたと感じると同時に、どの程度県民を守ることができたのか、との疑問もある。生存者の証言はあるが、在任中の本人の日記などは残されていない
▼島田知事は住民の疎開に奔走したとされるが、疎開は足手まといになる住民を排除する側面もあった。日本軍は戦闘に役立つ者は全て戦場に動員するよう要求した。北部疎開は食糧不足に加え、マラリアの危険があった
▼未曽有の危機といわれる新型コロナウイルスの感染拡大。政府や県は対策を協議した専門家会議などの議事録を作成していなかった
▼75年前の混乱のさなかならいざ知らず、情報通信などの技術が発達した現代で、施策の判断根拠を裏付ける詳細な記録がないのは理解し難い
▼同じ過ちを繰り返さないためにも記録を残すことは重要だ。年々少なくなってきた沖縄戦体験者の証言を掘り起こし、伝えていく意義は大きい。あの惨禍を二度と繰り返してはならない。その思いを強くする。