<金口木舌>「首里の馬」から見える沖縄


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 速さを競うのが日本の競馬なら、沖縄の伝統的な「琉球競馬」は美しさを競う。宮古馬など沖縄の在来種が柔らかくて軽やかな脚さばきを披露する

▼その宮古馬が登場するのが高山羽根子さんの小説「首里の馬」。第163回芥川賞に輝いた。主人公は沖縄に住む未名子。沖縄のDNAを刻む宮古馬との奇妙な出合いをきっかけに生活が変化する
▼未名子は仕事のない日は民俗学者のつくった「資料館」を手伝う。紙の資料に昆虫の標本、ガラス乾板、人骨の欠片。乱雑な収集品を整理する過程で、土地の歴史や文化に興味を抱く
▼物語の背後に明治政府による琉球併合以降、沖縄が歩んだ苦難の歴史がある。沖縄戦で損壊した那覇・首里の街も描かれている。戦禍によって島の歴史を刻んだ多くの記録が失われた。「資料館」の収集品は記録の断片なのだろう。資料館の取り壊しに伴い物語の終盤、記録することの意義が浮かび上がる
▼高山さんは「記録するという行為には、その人の中だけで完結しない何かが必ずある」と言う。1995年に開館した県公文書館は、四半世紀にわたり沖縄戦で失われた記録を世界中から収集してきた
▼「公文書収集は沖縄の人がどう生きたか、DNAやアイデンティティーにかかわる作業」。「首里の馬」の朗報を聞き、公文書館の初代館長の宮城悦二郎氏の言葉に思いをはせる。