県出身の歌手、南沙織さんのことを「国策歌手」と例えたのは、夫で菊池寛賞の受賞が決まった写真家の篠山紀信さんである。6年ほど前、那覇市で開かれた写真展のトークショーで語っていた
▼軍歌や戦時歌謡の歌い手を思わせる。篠山さんの説明はこうだ。「沖縄からすがすがしい少女がやってきた。沖縄はすてきだなというイメージをつくるための国策歌手ですから」
▼デビューは1971年、沖縄の施政権返還の前年であった。「国策」の例えは言い過ぎかもしれないが、南さんの清楚(せいそ)な姿と歌声は、沖縄がまとっていた重苦しい空気を幾分和らげたのかもしれない
▼沖縄の民放テレビ番組でアシスタントをしていたお姉さんが小さな島を飛び出して華やかな地で歌った。家にあった白黒テレビで南さんを見ていた少年も世替わりを感じた。デビュー曲は「17才」。作曲は先日亡くなった筒美京平さん
▼「魅せられて」など数多くのヒット曲と同様、「17才」のメロディーも一度聞いたら忘れられない。歌詞の意味は分からなかったけど、最後のリフレイン「私は今 生きている」が印象に残る
▼筒美さんは時代と伴走しながら、未来を奏でる作曲家だったのだろう。南さんのデビュー曲もそういう一曲に思える。50代になったおじさんは「私は今、生きている。いろいろあった沖縄も生きている」とつぶやいている。