<金口木舌>なぜ自殺がいけないのか


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 なぜ自殺をしてはいけないのか。問われると、意外と答えるのが難しい問いかもしれない。解剖学者の養老孟司さんは、著書「死の壁」(新潮新書)で、この問いに答えている

▼一つは自殺は殺人の一種であること。もう一つは自殺は周囲の人に大きな影響を与えてしまう「二人称の死」であるとする
▼息子を自殺で失った私の知人は、10年以上たった今でも、なぜ止められなかったのかと、自身を責め続けている。残された者が心に負う傷は深い
▼7月以降、自殺者の数が大幅に増えている。自殺者数は過去10年減少を続けてきたが、今年は前年同月比で7月以降5カ月連続の増加。特に女性は10月は82.8%増、8月は44.2%増と深刻である
▼コロナ禍では多くの非正規雇用の女性が仕事を失っている。「いのち支える自殺対策推進センター」は「無職の女性」「同居人がいる女性」が自殺死亡率を押し上げ、感染拡大による経済面や家庭での悩みが影響している可能性があるとみている
▼まずは生計の安定である。政府の緊急小口資金や住居確保給付金の支援が年内で途切れる人もいる。延長を検討すべきではないか。SOSの声を上げやすくするのも重要だ。自殺は、その多くが追い込まれた末の死である。生きることを阻害する要因は何か。取り返しがつかない命を救うため、私たちの社会ができることはある。