子育てを通して幼少時代に親しんだ絵本「おしいれのぼうけん」や「ねないこだれだ」と再会し、読後感の違いを経験した。怖いだけの印象だった物語に人生の教訓を見いだした
▼大人になって出合った絵本も興味深い。戦場を描いた田島征三さんの「ぼくのこえがきこえますか」はそんな一冊。国のために兵士になった「僕」は砲弾を受け息絶える。その後、戦場にかり出された「弟」に「僕」はあの世から叫ぶ。「だれのためにころし」「だれのためにころされるの?」
▼「僕」の問い掛けに胸が締め付けられた。大義のためにとあおられ一人一人の命が軽んじられる。沖縄戦の証言と重なった。研ぎ澄まされた言葉と絵から立ち上がる世界に引き込まれた
▼ジュンク堂書店那覇店の児童書の売り上げは昨年、前年に比べて15%増加した。絵本に親しむ大人が増えている。全国でも出版物全体の売り上げは減少傾向にあるが、絵本は堅調に売れている
▼大人たちは絵本に何を求めているのだろうか。絵本の中には現実と空想を往復するような世界が広がっている。夢や希望ばかりではなく、不条理も漂う。そんな作品世界に大人たちは引かれているようだ
▼現実にどっぷりつかる大人たちも、時には子どもの頃に親しんだ絵本の世界に帰り、心を休める時間を持ってもいい。大人の心も耕してくれるのが絵本の魅力なのだろう。