こんなエピソードがある。「I LOVE YOU」をどう訳すか。「我、君を愛す」とした生徒に対し、英語教師だった夏目漱石は「日本人はそのようには言わない。『月が綺(き)麗(れい)ですね』とでも訳しておきなさい」と指導した
▼事実かどうか定かではないというが、日本人らしい表現の妙を感じる。夜空に浮かぶ月に思いを重ねて恋心を伝える。現代人に通じるだろうか
▼小倉百人一首にも月がしばしば登場する。「嘆けとて 月やはものを 思はする かこち顔なる わが涙かな」(西行法師)。恋わずらいの涙を月のせいにする歌だ。歌謡曲やJポップにも月にまつわる曲は多い。月は人をセンチメンタルにする
▼忌み嫌われる月もある。月食だ。日本だけでなく海外でも昔の人は「何か良からぬことが起こる前兆」として捉えていた。今ほど電灯が普及していない時代、徐々に欠けて暗くなる月に恐怖を覚えたのだろう
▼きょうの午後7時9分ごろから約3年ぶりに東南東の空で皆既月食が見られる。太陽と地球、月が一直線上に並び、月が地球の影に隠れることで起こる。特に今回は月は大きく見える。スーパームーンに当たり、注目が集まっている
▼残念ながら本島地方は曇りの予報。新型コロナウイルスの拡大で緊急事態宣言が出る中でも、「月が綺麗ですね」と語り合える心の余裕は持っていたい。
<金口木舌>「月が綺麗ですね」
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琉球新報社