<金口木舌>幻の優勝


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 県勢のスポーツを取材していて何度か全国優勝に立ち会った。甲子園や高校総体などいずれも印象的なシーンの中で特別な記憶がある。幻の優勝だ。2010年の千葉国体カヌー競技のこと

▼高校生ペアが断トツの強さでトップでゴールした。疾走するシーンを写真に収め、翌日の紙面は大展開になると考えてインタビューに向かった。途中で結果について協議中との場内放送があったが、気に留めなかった
▼協議の対象は沖縄ペア。ゴール後、喜びのあまり水に入ったことが規定違反となり、まさかの失格。順位も公式記録にも残らなかった。水に入った選手は言い訳はせず「やってしまった」と処分を素直に受け止めた。沖縄水産高ペアとして大城海輝選手と出場した當銘孝仁選手である
▼當銘選手の東京五輪代表が決まった。大学、社会人とトップ選手として歩み、つかんだ初の五輪代表である。アジア予選では僅差で代表の座を逃しただけに喜びもひとしおだろう
▼朗報の直後に高校時代の失格の話はそぐわないかもしれない。しかし、失敗も含め一本一本のレース経験の積み上げが代表選考会につながったことも事実だろう
▼五輪での表彰台を目標に掲げる。長い間組み、共に五輪を目指した大城選手の思いも背負う。温かく見守ってきてくれた家族、関係者のためにも堂々としたレースを展開してもらいたい。