1カ月と5分だった。国頭村の辺戸岬に立つ祖国復帰闘争碑に刻まれた碑文を書き上げるのに要した時間である。作者は3代目の沖縄祖国復帰協議会(復帰協)会長の桃原用行さん
▼復帰協の役員に執筆を頼まれ、悩みに悩んだ。書けないまま1カ月が過ぎたある日、「波の声もとまれ」で始まる恩納ナビーの歌が浮かんだ。そこから5分で碑文が出来上がった
▼米統治に抵抗した27年の苦闘を桃原さんは碑文に刻み込んだ。闘争碑が立って今年で45年。「吹き渡る風の音に耳を傾けよ/権力に抗し復帰をなし遂げた大衆の乾杯の声だ」の書き出しは今も読む者の心を揺さぶる
▼この人も揺さぶられたであろう。元県議の中根章さんである。復帰40年の年、復帰運動を闘った仲間と共に闘争碑の前で「沖縄を返せ」を歌った。万年青年の風貌だった中根さんが逝って5年になる。歌声をもう一度聞きたい
▼今年の「4・28」の日、米軍機が辺戸岬沖を低空で飛んだ。闘争碑の修復作業に関わった上原一夫さんは憤る。「来年で復帰50年になるが、沖縄を差別するような行為が繰り返されている」。屈辱は続く
▼闘争碑が管理者不在の状態だと本紙報道で知り、驚いた。来年から国頭村が管理する意向という。歴史も語り継がなければならない。「復帰はいまだ貫徹せず」。闘争碑が今を生きる私たちに発するメッセージである。