<金口木舌>丁寧に紡がれる平良敏子さんの情熱


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 まさひろ酒造(糸満市)の比嘉昌晋会長は十数年前、県外の骨董店で1冊の古書を見つけた。柳宗悦氏の著作「琉球の織物」(1939年発刊)。県立芸術大学に寄贈された本には、精巧で美しい織物が収められている

▼戦前、沖縄に通い詰めて芭蕉布などに触れた柳は民芸運動を展開する。柳と共に民芸運動に参加した倉敷紡績の大原総一郎社長の下で働いていたのは、戦時中に沖縄県勤労女子挺身隊として岡山県に渡った平良敏子さんだ
▼芭蕉布の産地として知られた大宜味村喜如嘉で生まれた平良さんは、集落を挙げて芭蕉布を織る中で育った。帰村前、大原に織り手がいなくなった芭蕉布の復興を託された
▼「祖先が残した手技と岡山での教えを守り、偽りのない仕事をすることが多くの方々への恩返しになる」。平良さんは本紙の取材で語っていた
▼戦後の苦難を乗り越え、芭蕉布を復興させた人間国宝の平良さんが亡くなった。柳著の「芭蕉布物語」は座右の書だった。平良さんの情熱は芭蕉の糸のように丁寧に紡がれていくだろう。