<金口木舌>名曲に託すアイデンティティー


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「皆が『音楽に国境はない』と口をそろえるが、一体誰が決めたのか。あってもいいんじゃないか」。作曲家の普久原恒勇さんが2011年、作曲活動50周年を記念した座談会で語った

▼音楽にはボーダーレスな魅力がある一方、風土を感じる曲も人を引きつける。代表曲「芭蕉布」は琉球音階もウチナーグチも前面に出さないが、キャンパスレコードの備瀬善勝さんは「どう聞いてもウチナーそのもの」と語る
▼「チコンキーフクバル」と呼ばれた父、朝喜さんが戦前、大阪でマルフクレコードを設立。写真家になるため沖縄に戻っていた普久原さんは同社の「起死回生を図るため」に曲を作り始めた
▼500曲を超える「普久原メロディー」は民謡から器楽曲まで多様だ。しかしその基底には必ず沖縄の風土を感じさせた
▼今春、本紙の取材に「沖縄がアメリカ世になってもヤマト世になっても、ここが琉球であればいい」と語っていた普久原さん。残された名曲たちに、世替わりを経ても変わることのない琉球のアイデンティティーが託されている。