<金口木舌>世替わりとハロウィン


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 日曜日の昼下がり。血の付いた白衣姿の女の子3人組が電車に乗り込んだ。ぎょっとしたのもつかの間、次は黒いマントの青年が

▼しかし車内は平然としている。ハロウィーンだ。本家の欧米は10月31日だが、東京では10月の週末は各地で祭りがあり、若者がさまざまに仮装して楽しげにパレードする
▼幼いころ外人住宅街と呼ばれた、米軍人家族が住む地区にいたのでハロウィーンは身近な行事だった。隣の子から借りた幽霊のドレスを着て、子ども同士で家々を回り菓子をもらう
▼米軍がベトナム戦争から撤退して家族もバタバタと引っ越した。潮が引くように米国人の友達がいなくなるのと前後して、小遣いもセントから円になった。ハロウィーンができなくなった寂しさは、子どもながらの世替わりの記憶だ
▼日本記念日協会は日本のハロウィーン市場は昨年1100億円で、バレンタイン市場を抜いたと推計する。古代ケルト人の悪霊払いが起源という祭りも日本ではコスプレ大会の様相を見せる。気になることもある
▼急速に普及したこの祭りの魅力は仮装だ。普段と全く違う格好で街を練り歩く非日常の楽しさは、日常の閉塞(へいそく)感の裏返しではなかろうか。だからこそ菓子をもらうわけでもない大人が熱狂する、とは考え過ぎか。やぼは言うまい。祭りを楽しみ、さまざまに起こる暗雲を払う力を蓄えたい。