<金口木舌>鳴き声に耳を澄ませば


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 この時季、北部を訪れた中南部や県外の人に驚かれることがある。山から聞こえてくる「ケーン、ケーン」という音に対してだ。「あの鳴き声は鳥? サル?」といぶかしげな顔をする

▼声の主はオオシマゼミ。沖縄市以北にしか生息しないから無理もない。9月から11月にかけて甲高く鳴く。金属音にも似た独特の声は哀愁を帯びて響く
▼もう1種。「ジーワ、ジーワ」と鳴くクロイワツクツクも秋のセミとしておなじみだ。山を包む両者の大合唱は、北部の人にとっては秋の風物詩だ。聞き慣れない不思議な鳴き声も、正体が分かれば季節を告げる音として味わえる
▼さて、永田町という密林にすむ生き物カクリョーたちの鳴き方はどうか。「カレンダー、カレンダー」と連呼していたのが「ポスター、ポスター」に突然変わった。危険を察知すると声色を変える種もいるようだ
▼親分ゼミも「ジーワ、ジーワ」に負けじと、最近とみに「ヘーワ、ヘーワ」と声高に鳴く。集団的自衛権や武器輸出など、きな臭さをかき消す際に発するようだ。「県民ノ理解ヲ得テ」というおうむ返しも、強権という本性を隠して理解者を装う“擬態”の一種だろう
▼魑魅(ちみ)魍(もう)魎(りょう)がはびこる永田町の生物を観察するポイントは、奇妙な鳴き声にごまかされず、本来の生態をじっくり見極めること。見誤ると、国民が悲鳴を上げることになる。