<金口木舌>徴兵逃れ


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 検査官が曲がって動かない男の腕に麻酔を注射する。腕を無理に伸ばされた男は悲鳴を上げて苦しむ。見物していた地域の人々が「検査官をたたき殺せ」と怒声を挙げて徴兵検査場になだれ込んだ

▼1910年に本部小学校の検査場であった「本部騒動」だ。沖縄に徴兵令が施行されて12年がたっていた。自ら腕や目などを傷つけて徴兵を免れようとする人が多かった
▼戦争の恐怖や軍隊内での沖縄差別に加え、働き手を奪われる地域の危機感もあった。当局は厳しく対応し忌避者は減少。県民は日露戦争から戦場に送り込まれ、沖縄戦で4人に1人が命を落とした
▼ロシアとの戦争が続くウクライナで徴兵逃れが横行している。高額で兵役免除の証明書入手をあっせんしているという。泥沼化した戦乱で徴兵を忌避する心情は理解できるが貧困層には逃げ道がない。ロシアでも動員を恐れる市民の国外脱出が相次ぐ
▼国家がいがみ合うはざまで弱い人々の命が奪われ続ける。国を率いるリーダーは戦争を終わらせるため手を取り合わねばならない。