<金口木舌>調書


この記事を書いた人 Avatar photo 宮城 菜那

 後にも先にもそのとき限りだが、捜査機関から取り調べを受けたことがある。任意で何度も聴取され、検事からも事情を聴かれた。処分を受けたわけではないが、気持ちのいいものではなかった

▼捜査機関は聴取内容を調書にまとめて署名を迫る。この調書がくせ者で、まず話した通りに書かれていない。最初の調書はまったくこちらが話した内容に即しておらず、修正を求めて何度もやりとりしたのを覚えている
▼何か「ひな型」でもあるのか、言ってもいない言い回しを用意してくる。よくよく読むと、法律が規定した内容に当てはまるよう表現を工夫していて、初めからストーリーありきの聴取だったようだ
▼20年前に長女が死亡した住宅火災で無期懲役とされた母親らの再審請求が認められた。再審無罪の公算が大という。直接の証拠は捜査段階の自白だけ。警察や検察の自白調書が決め手となり有罪判決になった
▼過去の冤罪(えんざい)に共通するのが虚偽自白だ。いつまで続くかしれない目の前の苦しさから逃れたい一心で、うその自白をしてしまう。先の国会で継続審議となった刑事訴訟法改正案の「取り調べの可視化」があればどうなっていたか
▼逮捕後の勾留時間を定めた刑事訴訟法の規定など一般人にはなかなかなじみがないだろう。任意聴取ですら重苦しかったことを思うと、虚偽自白の心理も人ごとではない。