<金口木舌>体験者に寄り添う


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 「地球は丸いし、プレスリーは亡くなっている」。映画「否定と肯定」の主人公の研究者のせりふだ。映画はナチスによるホロコーストを「なかった」と主張する男性との裁判を描いている

▼誰もが疑わないような事実でも、一つ一つを立証することには難しさを伴う。時間が経過していればなおさらだ。しかし大きな犠牲を生んだ歴史の過ちを無視することは許されない
▼小学6年生の社会科教科書の検定結果が公表された。合格した教科書で当時の県知事・島田叡氏を一面的に描いた記述もあった。映画の公式サイトなどを根拠にしたという
▼出版社は「あらゆる側面に配慮しながらというわけにはいかない」などとしている。島田氏は日本軍を支えた戦時行政の知事だ。軍が南部に撤退したことで住民の犠牲は膨らんだ。悲惨な戦禍を招いた責任の一端を背負う
▼体験者は教科書の記述について「沖縄戦の実態をしっかり伝えてほしい」と語る。米軍の本島上陸からきょうで78年。体験者の思いに寄り添うことが真実を見失わない方法だと痛感する。