世界的な音楽家の坂本龍一さんが制作した「energy flow」は優しい旋律のピアノ曲だ。発表当時、携帯電話の着メロに設定し、毎日聞いた
▼ニューヨークを活動拠点にした。米中枢同時テロを目撃した後、平和のメッセージを発信するようになった。音楽家でありながら平和の尊さを訴えるオピニオンリーダーでもあった
▼亡くなる直前、明治神宮外苑の再開発に反対する手紙を東京都知事に送った。「目先の経済利益のために樹々を犠牲にすべきではない」。何かを犠牲にして誰かが利益を得る不条理を追及する姿勢は一貫していた
▼米軍基地負担にあえぐ沖縄にも心を寄せ、「政府上層部は反民主主義的で独善的」と痛烈に批判した。中央の視点ではなく、虐げられる人々の気持ちをくんで語られる言葉は、権力者にとっては強く、民衆にとっては優しく聞こえる。その存在に希望を見た県民は多いはずだ
▼もっと語ってほしかった。でも、坂本さんは強い言葉と優しい旋律を遺してくれた。これからも私たちの心に希望の光を灯(とも)すだろう。