<金口木舌>“埋められた”巨人を忘れず


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 「北海道は、開拓者の大地だ」とうたった日本ハムの球団広告が撤去された。先住民族がいた正しい歴史の理解につながらず「配慮が足りない」と北海道アイヌ協会が申し入れた

▼今、新作の翻訳が最も待たれる1人、英国の作家カズオ・イシグロさんが10年ぶりの長編「忘れられた巨人」を上梓(じょうし)した。遠くにいる息子を探し、奇妙な霧が覆う大地を行く老夫婦の旅を書く
▼霧は人々の大切な記憶や過去、歴史をおぼろげにする。翻訳家・柴田元幸さんのインタビューでイシグロさんは、国家における記憶と忘却を描こうとしたと語る
▼「個人は、国家はどこまで自分をだますべきか」「いろいろな国にこのことは忘れることにしようと国民が同意しているような、何か大きな事柄があるように思う。あいにくそれらは隠されたままでなく何度でも戻ってくる」
▼安倍政権の下でナショナリズムや歴史修正主義、無知や無関心の霧が覆う。アイヌもしかり、沖縄や福島、「慰安婦」などの“埋められた”または“埋められつつある”巨人を忘れず、繰り返さぬため、個人や国家がどう霧を払うかが試される
▼複合化学汚染が見つかった沖縄市サッカー場に近い北谷町の住宅地土壌から、基準値の約2倍のダイオキシンが検出された。米軍返還地の環境汚染もまた、霧のせいにして忘れてはならない埋められた巨人である。