<金口木舌>奇襲「猫だまし」


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 大相撲九州場所優勝に王手をかける横綱白鵬が、栃煌山に連発した奇策「猫だまし」が話題だ

▼眼前で両手をぱちんと打って相手を攪乱(かくらん)し、仕掛ける。小兵が格上の大柄力士に用いるのが通例で、日本相撲協会の北の湖理事長は「前代未聞」と苦言を呈した。スポーツ紙も「格下をもてあそんだ」と軒並み批判の論調だ
▼一方、白鵬は「そんな技があるなら一度やってみたいという素直な心」。負ければ批判は当然の横綱、一瞬棒立ちになる危険を承知で打って出て、結果勝利したのだと
▼技のデパートと呼ばれた元小結の舞の海秀平さんは白鵬のファンサービスだと言う。その上で「大相撲にはスポーツより伝統文化的な側面がある。人の見方があって発展したから誰がやるかによる」。その是非には「世の中にいろんな問題があるのと同じ。土俵上は曼荼羅(まんだら)ですから」
▼ファンのがっかりも分からなくはない。それでも土俵は曼荼羅、しばし考える。伝統や王者はかくあるべきだという固定観念も、「品行方正」と「品格なし」の間を世論に揺さぶられ続ける横綱の“逆襲”も、いずれも曼荼羅の綾(あや)であるならいっそ奥深い
▼神経過敏な猫を驚かせるという「猫だまし」。自宅の猫2匹に試したが少し嫌な顔で無視された。野良猫の野性にも試すべきだがここは凡人の常、素直な心は抑えて横綱の心中に思い巡らせておこう。